初恋をもう一度。【完】
きらきら星を弾く手を止めたら、部屋の中が途端に静寂に包まれた。
壁にかけられた時計の秒針が、カチッカチッと無機質に時を刻む。
祖母がいないリビングは、こんなにも静かで寂しかっただろうか。
祖母が老人ホームに入ってこの家から姿を消しても、わたしはその寂しさを感じることはあまりなかった。
だって「さくらさん」はあそこにいたから。
わたしのことがもうわからなくても、きらきら星を弾けなくても、あそこで笑っていたから。
でも今は、どこにもいない。
「奈々の弾くピアノは、とっても優しいねえ」
いつも褒めてくれた祖母。
ピアノを習ったことのないわたしは、「上手だね」と言われるよりもきちんと誉められている気がして、とびきり嬉しかったのだ。
でも、そう褒めてくれた祖母は、わたしのピアノの観客は、もういない。