初恋をもう一度。【完】
ここで祖母のためにピアノを弾いたら、天国まで届くのだろうか。
死者を悼むなんて、やっぱりとてつもなくエゴイスティックだ。
もうこの世にはいない祖母に、ピアノなんて聴こえるはずもないのに。
それでも、これはわたしに必要な作業だった。
涙を拭い、大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
そうして弾き始めたのは、ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』だ。
中学2年の時、祖母に楽譜を買ってもらったけれど、当時は難しくて弾くことができなかった。
わたしがあの頃弾けた曲よりもずっと簡単そうに聴こえるのに、何故かうまく弾けなかった。
やっと弾けるようになったのは、大学に入った頃で、その時には祖母はもう、この家にはいなかったのだ。
だから、一度も披露していない。
祖母に買ってもらった最後の楽譜だったから、それがずっと心残りだった。
亡き祖母のためにこの曲を弾くなんて、やっぱりエゴイスティックだ。
でも、人はどうにかして、別れというものを受け入れなきゃいけないのだ。
だってわたしの日常は、祖母を失っても続いている。