僧侶とホストと若頭、3つの顔に揺れる恋
殺伐とした世界と清心な世界、両極端な世界を行き来しているとは、とても思えない。

池の鯉の鮮やかな赤が、池の囲いに生えた苔の緑を際立たせている。

水面を揺らす鯉の動きが、悠斗の従えた組員たちのように、悠斗が操る火挟みに群がり、口をパクパクさせている。

「凛子。餌をあげてみるか?」

「うん」

「ちょっと待っていろ。餌を持ってくる」

慌てず騒がす、お勝手口に向かう悠斗。

ただ歩く姿さえも優雅に見える。

あたしの目は悠斗の姿ばかり追っている。

かた時も悠斗を見逃すまいとしている。

身体中が熱かった。

「凛子、受け取れ」

数分後。

悠斗が縁側から、あたしを呼んだ。

放物線を描いて飛んできたビニール袋、あたしは少し背伸びして両手で受け取った。

ジッパー付きの餌袋は1回ぶんの量を小まめに詰めたものだろう。
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