僧侶とホストと若頭、3つの顔に揺れる恋
「ヒカル、止めてこい。殴ってもかまわん」

蜷川常務が腹の底にずしりと響く低音で、俺に命じた。

「はい」

俺は店長の手を引き、部屋を出た。

店長は部屋を出るなり、俺を盾にして、俺の後ろに隠れ暴れるホストを指差した。

従業員のホストたちが客を暴れるホストから遠ざけるのに、必死になっている。

まだ怪我人は出ていないが、数ブロックに分かれた店内の座席やテーブルの上が、かなり乱れている。

割れたグラスやワインボトル、散乱した果物や軽食の残骸。

あちらこちらから客たちの悲鳴が聞こえた。

「店長、お客様を安全な場所に誘導してください」

俺の肩を掴んで離さない店長に小声で言うが、店長は俺の肩を掴んだまま、震えている。

「店長」

俺は店長の頬を平手打ちし、客の居る方へ押しやった。

「ヒィィーーッ」
< 55 / 78 >

この作品をシェア

pagetop