僧侶とホストと若頭、3つの顔に揺れる恋
「赤い痣者を暴けば、組に入れてやるとでも言われたか?」

彼は黙っている。

「襲撃の時ーー梁瀬隊長か?」

彼が俯く。

「図星かーー口数の多い奴だと思っていたが」

俺はそれっきり、何も訊かなかった。

右腕の治療を済ませ、彼の連絡先を確認し「梁瀬とは連絡を取るな」と釘を刺した。

耳の後ろの痣ーーそんなものを覚えている者が居たとは、思ってもみなかった。

小さな痣だ。

よほど気をつけていないと判らないような痣。

そんな痣をあの激しい闘いのさなか、目敏く見つけた梁瀬の観察眼と動体視力は驚異的だ。

優れた能力を持ちながら、その能力を生かしきれず、ずれた方向にしか使えない。

何とももったいない話だ。

店に戻り蜷川常務に、今しがた聞いた情報を話すと、蜷川常務は「わかった」とだけ言った。
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