僧侶とホストと若頭、3つの顔に揺れる恋
あたしが蹊城の裏番を噂だけでしか知らないからかもしれない、と自分を納得させようとしている。

そして梁瀬がヤクをばら蒔いていたという情報を悠斗が持ってきたこと。

組員たちは悠斗のことも梁瀬隊長のことも、言いたい放題に騒いでいる。

でも、あたしはそんな気にはなれなかった。

ずっとあたしの側で優しく笑っていた悠斗、あたしの家庭教師だった悠斗が違う人みたいだ。

あの松尾組襲撃から、あたしの知らない悠斗がどんどん大きくなっていく。

「蹊城の裏番は耳の後ろに赤い桜の痣があったんだとさ」

悠斗とは小さい頃から、ずっと一緒にいたのに。

悠斗にそんな珍しい痣があったなんて、あたしは気づきもしなかった。

「お嬢。ボーとしてどうかなすったんで?」

「いや、何でも」

梁瀬の処分の詳細は語られていない。

おそらく親父と蜷川常務、悠斗の間で処理されたのだと思う。
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