僧侶とホストと若頭、3つの顔に揺れる恋
「そうっす。蹊城の裏番、つまり赤い桜の痣者は警察(サツ)も手を妬いている不良(ワル)を黙らせたり、恐喝してる奴を締め上げたり。何しろめっぽう強かったらしいっす。当時のことは伝説になっているくらいで」

頭がクラクラした。

悠斗に会って、悠斗の話をじっくり聞きたいと思った。

悠斗がどんどん遠い人みたいに思えて恐かった。

「しっかし、若頭は掴みどころのないお人っすね。一昨日は剣先専務と射撃場で競争しなすって、圧勝なすったとか。あの剣先専務にっすよ」

「射撃部だったっていうのは本当だったんですね」

そのあとも組員たちがしきりに悠斗の噂話をしていたが、あたしはぼんやり聞いていた。

昼過ぎ。

門の外で車のエンジン音がして、悠斗とおふくろが帰ってきたのを出迎える。

悠斗はあたしに会釈して、おふくろと談笑しながら奥座敷に入っていった。
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