僧侶とホストと若頭、3つの顔に揺れる恋
誰もあたしに「ありがとう」なんて言葉、かけてくれなかったし、あたしが何をしているかなんて知らないと思っていた。

悠斗の匂いがする。

神社で毎日、あたしの隣でお経をあげていた悠斗の袈裟に染みついた、紫壇の優しい香り。

変わらない悠斗の匂いに包まれていると、悠斗自身も何も変わっていないように思えてくる。

あたしが悠斗の香りに酔っていると、悠斗の上着からスマホ着信の振動が伝わってきた。

悠斗はあたしを抱きしめていた腕をほどき、スマホを取り出した。

「もう行くのか?」

「俺はちゃんと戻ってくるから」

悠斗があたしを見つめて、あたしの頬にそっと両手を添える。

「……悠斗」

悠斗の顔がゆっくり近づき、あたしの額に柔らかい感触が触れた。

それが悠斗の唇だと気づいて、体がカーッと熱くなった。

「凛子、俺は大丈夫だから」
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