僧侶とホストと若頭、3つの顔に揺れる恋
こいつ……こんなに石鹸の香りをさせていていいのか? 僧侶が石鹸の香りって……。

お経を唱えるよりも、そちらが気になり読経が疎かになり、何処を唱えているのか判らなくなった。

慌ててページを繰っていると、悠斗が冷たい声で「集中してください」と言い、教本を指差した。

「弛んでいますよ」

付け加えた一言が、震え上がるほどに冷めた声だった。

住職の朗々とした声で読経が滞りなく終わると、悠斗は再びサッと立ち上がり、住職の体を支えた。

「悠斗、10時から法要が入っていたな。どなただったかな」

「加納さまの3周忌法要です。ご子息と奥様がお見えになります」

「ふむ。そうそう加納さまだったな」

住職はスケジュール確認を度々行う。

小僧たちの話だと、数年前から物忘れが気になるようだ。

「元県会議員、加納孝明さまは立派な議員さんだったがな。もう3周忌か」

「そうですね。市会議員選の応援演説中に心筋梗塞でお倒れになり、それっきりでした。今日は墓前を参拝される方が多いでしょうね」

「奥方が見えられたら呼びなさい」

「はい、畏まりました」
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