幼馴染たちのある日

色白


 京がカーテンを開けた。朝6時。

「おはよう」

「おはよう、早く閉めて」

 平々凡々な湊にはきつい、朝の光が差し込んでくる。

「どうかしたの? 今日は学校なのに」

「とりあえず閉めて」

「そっか、わかったわ」

「だから、閉めてって」

 と、答えたものの。京は腰をおろしたままだ。


 ここで締めたらもう一度寝込むのがわかりきっているためである。
 湊から少し離れたところで、京は閉めようとせずに椅子に座ってる。


「日差しがきつい」

「吸血鬼じゃないんだから、そのくらい大丈夫なはずだわ」

「寝たい」

「朝、寝起きが悪い訳ではないのだから」

「それでも、寝てたい。眠い」

「不健康よ。昨日、何時間寝たか湊、あなたは覚えてるかしら?」

「十二時間?」

「あら、いますぐ起きなさい。寝るのが趣味の一つだとはいえ、寝すぎると体に悪いわ」

「おせっかい」

「じゃあ、もう片方も開けるわね」

「嫌だ。待って」


 薄情なことにカーテンを引きずる音が聞こえた。
 京が湊の様子を見つめてる。


「何?」

「肌がだいぶ白くなってきたんじゃない?」

「そりゃ、毎日引きこもってりゃそうなる」

「そう、自覚あったのね。日の光を浴びて朝起きしなさい」

「学校まだじゃん」

「確かにそうね、でも日の光には健康にいいと成分が含まれているわ」

「余計なおせわ」

「なら、余計なおせわをかけさせないようにしなさいな」

「でも、寝てたい気分なの」

「そう。確かにストレスになるから、無理強いは良くないわね」

「そういうなら、別に寝てても……」

「いいと思うわ」

「えっ、じゃあ」

「それでは、失礼いたしました」


 諦めが明らかに早い。
 こういうときは、必ず京には目的がある。そして引き時ぎりぎりまでいつもはねばるのに。



 おかしい。


 そもそも、たいていの場合は自分のやりたいことがある時の起こし方なのに、わざわざ不利になるように話を持っていくのか。

『確かにストレスになるから、無理強いは良くないわね』なんて、もうすでに京にとっては失言のたぐいではないか?



 あれ。やっぱり、おかしい。

 それとも、意図的にそう持ってきたか。


 湊はじっと見つめた。京のまばたきまで、違和感のままに、見つめた。

 京は、そんな湊に。満面の笑みで一言。


「今日の夜、楽しみにしてて」







「うげぇ」


 幼馴染故のの強烈なイヤな予感は当たったのだ。

 今日の夜、逃げたら地獄を見るのは自分のほうだと湊はわかっているからである。

 京がトビラを閉める。

 音のなるその瞬間まで、自分への失望と敗北に呆然としていたのだ。

 これを世の中でこういうのを知っている。







『さすが、幼馴染』と。
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