幼馴染たちのある日







「今日はありがと」

「いや、ちょうど誰もいなかったから。みんな誘ったんだけれど、夕飯別のところで食べるらしくて」

「そっか」

「おじゃまします」

「こっち、座って。橘(たちばな)も堅苦しくならなくていいから」

(いや、ルークの部屋なのにそんなに自分の部屋のように……)

 こちら、高校生活初の湊の友達である、清水である。
 後ろにいるルークは湊と同じ趣味が料理であることを清水から聞いている。ルークは味噌汁限定になってしまうが。

「急に、どうしたの?」

「今日、向こうで食べに行くので盛り上がって。でも、味噌汁の賞味期限近いから消費しないとかなりやばいらしくて」

「なんで、清水がそんなに把握してるの?」

 湊はついに口に出してしまう。

「ほぼ毎日味噌汁食べに来てるし」

「……」

「……」

 京があまりここに来たくなかった理由がこれなのである。
 あまりにも夫婦感があるのだ。この二人には。あまりにも近い。
 というか、熟年夫婦だ。すでに。

「ここの部屋、俺のところから近いのもあるから」

「となりどうしだしねぇ……」

「となりどうしでそんなに仲良くなれるのかしら」

「おれを見ないで、京。期待されても、無理」

「知ってるわ」

「それはそれで嫌だ」

「あら、じゃあ。一生引きこもりのまま……」

「そんなに気にしなくてもいいと思うよ。心配なのはわかるけれど、畠田は俺の友達だし、もうちょっと信用してやれよ」 

 清水の助け舟。京はおもちゃが取られた子供のような、無邪気に見える表情を浮かべた。

「あら、頭に血をのぼらせて湊が成長するチャンスを逃してしまったじゃない」

「信用してるんだが、してないんだが」

「やればできるなんて、わかってますの」

「そっか。つまり、俺が友達としてふさわしいか試されていたわけか」

「おわかりになられて」

「隠す気もないのか。タチわりぃ」

 ルークが火を止めて茶碗を出す。

「できたよ」

 いい匂いがキッチンから漂う。

「あれっ、客用の茶碗はどこに行ったっけ」

「一番上の右のダンボールの中に入れたんじゃないか」

「……」

「……」

 さすが、熟年夫婦。
 どうして把握しているのというのが幼馴染二人の意見である。
 ちなみに湊のキッチンの配置を京は把握していない。
 京と湊は、なんでもいいので話題を探した。

「ところで、どうしていつもの方々は……」

 そう。いつもの勝(かつ)とかこの空間にいれば、少しは違ったかもしれない。まあ、それだったら、湊は来なかったが。

「みんなそろって食べ放題に行った」

「考えることは同じですのね……」

「食べ盛りだしな。というか、行こうとしたのか?」

「うん、まあ。呼ばれるまでは」

「そっか。悪いことしたな」

「いや、そんなに行きたかったわけでもないし……」

「ということは、誘ったのは橘ってことだろ? じゃあ、畠田。なぜ橘は誘ったと思う?」

「知らない」

「ここに、はじめは一流シェフが来てると話題になったわけだろうが。そして、そのケーキが食べ放題ときたわけだ」

「ふーん。そういうこと」

 そこまでそんなに食べ放題に興味がなかったので、何が売りなのかとかは湊は気にしていなかった。

「橘、ケーキを全種類食べたいけれど食べきれないんだろ? なら、明日一緒に行かないか。畠田と一緒に」

「うん」

「うえっ」

「はいはい。畠田はお前、本当は行きたいんだろ。いい加減、意地を張るのはやめろ」

 ただし、食べ放題ではなくて、『橘と一緒に』が入るのだろう。
 それを言うと清水は畠田が否定する可能性が高くなるためにあえて抜いた。

「お父さん」

「そんなこと言わせてるのはどこのどいつだ」

「わかった」

「ルークも行くか?」

「うん、そうようかな」

「ルーク、準備手伝おうか?」

「ありがとう、清水さん。だけど、今日は少ないから大丈夫だよ」

「了解」

 清水がメモ帳に書きながら言う。

「じゃあ、集合時間は七時で店前でいい?」
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