隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
「馬鹿になどしていません。カーラ様、前が痩せ過ぎなんだと思います。ちょっとふっくらしたからなんでしょうね。とても魅力的です。素敵よ」
ノエリアが微笑むと、カーラはますます顔を赤らめた。
「さっき、お顔を見たときにうっとりしました。元々お美しいですけれど、わたしはいまのほうが好きです」
女性の容姿を褒めるのは得意ではない。だからノエリアは身近にいるサラやほかの侍女を手本にしている。
彼女たちはまるで花を見て言うように「美しいですね」「綺麗」「今日も可愛らしいです」など、嬉しくなる言葉をくれる。
「カーラ様はとっても美しいのですね」
また言うと、カーラは耳まで真っ赤になった。
「あなた、わたしが憎くないの? 怒ってないわけ?」
「どうしてですか? わたし、カーラ様が前と雰囲気が変わったから、その」
前、という言葉を口にしたらカーラの目が一瞬曇ったことに気付く。それを気付かれたくないのかふっと顔を背けた。
(カーラ様はとても繊細なのね。それ故に気持ちが激しい)
王宮に入ったらその激しさはまわりにあまりよい影響は与えないかもしれない。せめて自分にだけでも心を寄せてくれるといいのだけれど。ノエリアはどう言葉をかけたらいいか少し考えてからゆっくり口を開く。
「あの……大変でしたね。気持ちが分かるなどと軽々しく言うつもりはありません。あなたの痛みはあなたにしか分からないから。でも、こうしてまた会えたのもご縁だと思います」
ノエリアの言葉にカーラが反応する。ゆっくりと目を合わせてきた。カーラの表情が少し軟らかくなった。
綺麗事の言葉をかけてもきっとカーラは反発するに違いない。けれど自分がわだかまりを持っていないことは伝えたかった。
「そうね……なんかね、わたし置いていかれて、少しは悩んだのだけど馬鹿馬鹿しくなって。そしたら急にお腹が空いてきたわけ。ほら、遺伝で太ったら縁談が来ないんじゃないかとか色々言われていたから食が細くなっちゃって。まぁそれは別にいいんだけれど、あなたが細過ぎって言うのはそうかもしれないわね。でね、どうでもよくなって食べたら太ったの。それだけ」
一気にまくし立てたカーラはため息をついた。無理に明るく振る舞っているのだろう。扇子を持つ手は色が変わるほど強く握られていた。
「わたし、こういう性格だから引き取られた親戚と相性が悪くて。だから嫌で出てきたのよ」
国王の命を狙う事件を起こした男の娘。本来ならそんなもの引き受けないのかもしれない。けれど、カーラには罪がないのだ。
「行くところなんか無かったし、だから……陛下には感謝しています」
そう言ったカーラはうつむいた。強がっていてもやはりここ数ヶ月つらい思いをしたのは想像に難くない。
「カーラ様、あのわたし」
「カーラと呼んでくださって構わないわ。わたしのほうが年下だし、あなたは王妃になるのだから」
顔を上げたカーラはまたパタパタと扇子を動かす。カーラは二十歳になったばかりだとリウから聞いていた。ノエリアと五歳違う。
「わたしは怒っていません。あの、カーラを歓迎します」
「そ、そう。感謝します」
「お茶が冷めてしまうから、どうぞ。甘いものも召し上がってくださいな」
ノエリアに促されてカーラは焼き菓子とチョコを頬張って「美味しい」と表情を緩めた。ノエリアも一緒につまみ、お茶を口にする。すると、カーラが口を開いた。
ノエリアが微笑むと、カーラはますます顔を赤らめた。
「さっき、お顔を見たときにうっとりしました。元々お美しいですけれど、わたしはいまのほうが好きです」
女性の容姿を褒めるのは得意ではない。だからノエリアは身近にいるサラやほかの侍女を手本にしている。
彼女たちはまるで花を見て言うように「美しいですね」「綺麗」「今日も可愛らしいです」など、嬉しくなる言葉をくれる。
「カーラ様はとっても美しいのですね」
また言うと、カーラは耳まで真っ赤になった。
「あなた、わたしが憎くないの? 怒ってないわけ?」
「どうしてですか? わたし、カーラ様が前と雰囲気が変わったから、その」
前、という言葉を口にしたらカーラの目が一瞬曇ったことに気付く。それを気付かれたくないのかふっと顔を背けた。
(カーラ様はとても繊細なのね。それ故に気持ちが激しい)
王宮に入ったらその激しさはまわりにあまりよい影響は与えないかもしれない。せめて自分にだけでも心を寄せてくれるといいのだけれど。ノエリアはどう言葉をかけたらいいか少し考えてからゆっくり口を開く。
「あの……大変でしたね。気持ちが分かるなどと軽々しく言うつもりはありません。あなたの痛みはあなたにしか分からないから。でも、こうしてまた会えたのもご縁だと思います」
ノエリアの言葉にカーラが反応する。ゆっくりと目を合わせてきた。カーラの表情が少し軟らかくなった。
綺麗事の言葉をかけてもきっとカーラは反発するに違いない。けれど自分がわだかまりを持っていないことは伝えたかった。
「そうね……なんかね、わたし置いていかれて、少しは悩んだのだけど馬鹿馬鹿しくなって。そしたら急にお腹が空いてきたわけ。ほら、遺伝で太ったら縁談が来ないんじゃないかとか色々言われていたから食が細くなっちゃって。まぁそれは別にいいんだけれど、あなたが細過ぎって言うのはそうかもしれないわね。でね、どうでもよくなって食べたら太ったの。それだけ」
一気にまくし立てたカーラはため息をついた。無理に明るく振る舞っているのだろう。扇子を持つ手は色が変わるほど強く握られていた。
「わたし、こういう性格だから引き取られた親戚と相性が悪くて。だから嫌で出てきたのよ」
国王の命を狙う事件を起こした男の娘。本来ならそんなもの引き受けないのかもしれない。けれど、カーラには罪がないのだ。
「行くところなんか無かったし、だから……陛下には感謝しています」
そう言ったカーラはうつむいた。強がっていてもやはりここ数ヶ月つらい思いをしたのは想像に難くない。
「カーラ様、あのわたし」
「カーラと呼んでくださって構わないわ。わたしのほうが年下だし、あなたは王妃になるのだから」
顔を上げたカーラはまたパタパタと扇子を動かす。カーラは二十歳になったばかりだとリウから聞いていた。ノエリアと五歳違う。
「わたしは怒っていません。あの、カーラを歓迎します」
「そ、そう。感謝します」
「お茶が冷めてしまうから、どうぞ。甘いものも召し上がってくださいな」
ノエリアに促されてカーラは焼き菓子とチョコを頬張って「美味しい」と表情を緩めた。ノエリアも一緒につまみ、お茶を口にする。すると、カーラが口を開いた。