隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
「ねぇ、お願いがあるのだけれど」
もじもじとドレスを指で揉みなんだか言いづらそうにしている。
「いやあの、ごめんなさい。……お願いがあります」
「あの、普通にお話してくださって結構です」
「あ、そう。じゃあノエリア様もそうしてね」
カーラが言葉を直そうとしてくれている努力は、気持ちよく受け取ることにした。
(彼女のなかではまだわたしはあの時のノエリアなのだろうな)
別に丁寧な言葉で話をされなくてもノエリアはなんとも思わないのだけれど。
「あのね、わたしをあなた付きの侍女にしてくださらないかしら」
「え?」
突然の思ってもみない申し出だ。
「わたし、きっと役に立つと思うし」
元は公爵令嬢だ。その点、たしなみや知識などきっと豊富だと思う。
「だってほら、やっぱりシエル様に近い方がいいから。安心じゃない? 守られているって素敵よね」
「え? ええ」
うっとりと指を組むカーラ。
(このひと、なんか……逞しい)
ノエリアは自分も逞しいほうだと思っていたけれど、カーラには適わないと思った。
しかし、自分がノエリアの役に立つということと、居場所がシエルに近いほうがいいというのは脈絡がないと思われた。
ノエリアはあまり嬉しくないことを予想してしまう。顔にでないようにしなければ。
(ということは、カーラはまだシエルのことを思っているのね)
守られて素敵だなどと言うということは、まだシエルに心があるのだ。
縁談を持ちかけすぐにでもシエルのところへ輿入れするつもりでいたカーラだったのだから、自分とは別な娘が王妃になることが決まっていてもこの逞しさなら関係ないのかもしれない。
シエルは強く美しい国王だ。カーラは心奪われ恋をし、そして失恋した。
ノエリアの心がザワザワと騒ぐ。
(カーラは心を痛めた。分かるけれど、でも、わたしだってシエル様を愛している)
シエルの気持ちに疑問があるわけではない。けれど、このような状況になるとは思ってもみなかった。彼女を王宮に迎えたのはシエルの優しさで、そこが大好きだけれど、なんだか得体の知れない気持ちを運んでくるのだった。
つまんでいたチョコレートが体温に溶けて指にくっつく。それを口に運んで舐め爪を噛んだ。
「陛下がいらっしゃいました」
リウの声がしてカーラは慌てて立ち上がる。シエルが姿を見せリウと共にこちらへ来たのでノエリアはカーラの上気した頬を横目に、シエルのそばへ駆け寄った。
「遅くなってすまない」
「お疲れさまです」
カーラはシエルの前でスカートをつまんで腰を落とした。
「ご無沙汰しております。カーラです」
「長旅ご苦労様。これからよろしく頼む」
シエルが柔らかな笑顔を見せると、カーラはますます顔を赤くする。
「困りごとがあれば、わたしかほかの侍女たちにお話ください」
「は、はい」
カーラは胸に手を当ててうつむく。完全に恋する女性だ。
「どうなさった。体調でも悪いのか?」
シエルが声をかけると黙って首を振るカーラ。
(シエル様が話しかけたらカーラが呼吸困難になりそう)
「シエル様、あのね。こちらでカーラと一緒に少しお話する時間あると聞いたのだけれど?」
「ああ。これから夕方に来客があるから、小腹も空いたし息抜きがてらティータイムにしようか」
シエルからの提案がありがたかった。ノエリアは、シエルをカーラから離してソファに導く。カーラを呼び寄せて自分の隣に座らせる。
「リウ様にもお話を聞いていただきたいのですが」
「ああ。分かった」
シエルに呼ばれ、リウもテーブルを囲む。
ノエリアはこの場を取り仕切ろうと気合いを入れた。カーラの今の様子では先ほどのお願いを自分から切り出せそうにない。
(自分が婚約者なのにどうしてカーラに気を遣わなくちゃいけないの。リウに先に相談をできれば良かったのにな)
リウが状況把握をしていればまた違ったのに。
もじもじとドレスを指で揉みなんだか言いづらそうにしている。
「いやあの、ごめんなさい。……お願いがあります」
「あの、普通にお話してくださって結構です」
「あ、そう。じゃあノエリア様もそうしてね」
カーラが言葉を直そうとしてくれている努力は、気持ちよく受け取ることにした。
(彼女のなかではまだわたしはあの時のノエリアなのだろうな)
別に丁寧な言葉で話をされなくてもノエリアはなんとも思わないのだけれど。
「あのね、わたしをあなた付きの侍女にしてくださらないかしら」
「え?」
突然の思ってもみない申し出だ。
「わたし、きっと役に立つと思うし」
元は公爵令嬢だ。その点、たしなみや知識などきっと豊富だと思う。
「だってほら、やっぱりシエル様に近い方がいいから。安心じゃない? 守られているって素敵よね」
「え? ええ」
うっとりと指を組むカーラ。
(このひと、なんか……逞しい)
ノエリアは自分も逞しいほうだと思っていたけれど、カーラには適わないと思った。
しかし、自分がノエリアの役に立つということと、居場所がシエルに近いほうがいいというのは脈絡がないと思われた。
ノエリアはあまり嬉しくないことを予想してしまう。顔にでないようにしなければ。
(ということは、カーラはまだシエルのことを思っているのね)
守られて素敵だなどと言うということは、まだシエルに心があるのだ。
縁談を持ちかけすぐにでもシエルのところへ輿入れするつもりでいたカーラだったのだから、自分とは別な娘が王妃になることが決まっていてもこの逞しさなら関係ないのかもしれない。
シエルは強く美しい国王だ。カーラは心奪われ恋をし、そして失恋した。
ノエリアの心がザワザワと騒ぐ。
(カーラは心を痛めた。分かるけれど、でも、わたしだってシエル様を愛している)
シエルの気持ちに疑問があるわけではない。けれど、このような状況になるとは思ってもみなかった。彼女を王宮に迎えたのはシエルの優しさで、そこが大好きだけれど、なんだか得体の知れない気持ちを運んでくるのだった。
つまんでいたチョコレートが体温に溶けて指にくっつく。それを口に運んで舐め爪を噛んだ。
「陛下がいらっしゃいました」
リウの声がしてカーラは慌てて立ち上がる。シエルが姿を見せリウと共にこちらへ来たのでノエリアはカーラの上気した頬を横目に、シエルのそばへ駆け寄った。
「遅くなってすまない」
「お疲れさまです」
カーラはシエルの前でスカートをつまんで腰を落とした。
「ご無沙汰しております。カーラです」
「長旅ご苦労様。これからよろしく頼む」
シエルが柔らかな笑顔を見せると、カーラはますます顔を赤くする。
「困りごとがあれば、わたしかほかの侍女たちにお話ください」
「は、はい」
カーラは胸に手を当ててうつむく。完全に恋する女性だ。
「どうなさった。体調でも悪いのか?」
シエルが声をかけると黙って首を振るカーラ。
(シエル様が話しかけたらカーラが呼吸困難になりそう)
「シエル様、あのね。こちらでカーラと一緒に少しお話する時間あると聞いたのだけれど?」
「ああ。これから夕方に来客があるから、小腹も空いたし息抜きがてらティータイムにしようか」
シエルからの提案がありがたかった。ノエリアは、シエルをカーラから離してソファに導く。カーラを呼び寄せて自分の隣に座らせる。
「リウ様にもお話を聞いていただきたいのですが」
「ああ。分かった」
シエルに呼ばれ、リウもテーブルを囲む。
ノエリアはこの場を取り仕切ろうと気合いを入れた。カーラの今の様子では先ほどのお願いを自分から切り出せそうにない。
(自分が婚約者なのにどうしてカーラに気を遣わなくちゃいけないの。リウに先に相談をできれば良かったのにな)
リウが状況把握をしていればまた違ったのに。