隻眼王の愛のすべて  < コウ伝 >
モヤモヤとした気持ちがありつつ、それでも自分がしっかりしなければと思った。

貴族令嬢が侍女として王宮にあがったからといって、本来はこのように国王とティータイムを持つなどないことだが、この場にいる四人は共通の過去があるのだ。

ソファにつき、お茶の用意がされていく。カーラは三人に向かい、あらためて礼を言いたいと申し出た。

「この度は、陛下に多大なるご迷惑をおかけしたにも関わらず、このような寛大な対応をしていただき、本当に感謝しております」

深く頭を垂れるカーラ。

「難儀だった。カーラ、体調を崩したりはしていないだろうか」

「体調面は心配ありません。この通り、少し太りまして」

「見違えたな。美しくなった。なぁ、リウ」

ノエリアは驚いてシエルを見た。視線に気付いてシエルが首を傾ける。

「どうした?」

「……いえ」

(何気なく言ったのだろうけれど、彼がほかの女性をそんな風に褒めるなんて)

「そうですね。カーラ殿は雰囲気も変わりましたね」

リウが付け足すと、カーラは耳まで真っ赤になり汗だくである。握りしめた扇子が折れそうだ。

「きみの父が起こした罪は許すべきことではないが、俺もノエリアも無事なのだし。なにより、きみはなにも悪くない。だからここへ受け入れることにしたのだ」

王家にもヒルヴェラ家にも悪事を働いた人物の娘を王宮にあげる。しかしカーラはなにも知らずいわば被害者なのだから。
カーラはじっと黙って聞いていた。

「スタイノ家からは今まで多大な援助もありましたし。あなたはまたここで新たな生活をしたらいいのです」

リウがここまでの手続きを担当していたので、誰よりもカーラの身の上を分かっているだろう。

「……ありがとう、ございます」

カーラの目からポロリと一粒の涙が零れた。

身勝手な思いに駆られ罪を犯し自分を置いていった父を恨んでいるのだろうか。それとも恋しくてたまらないのだろうか。彼女の気持ちは分からないが、震える肩を見ていたらノエリアは複雑であろうカーラの気持ちが少しでも解れればいいなと思った。

(お互いにシエル様のことが好きなら、その思いは否定するわけにはいかない)

「シエル様、あのね。お願いがあるのです」

切り出したノエリアに皆の視線が向けられる。カーラは濡れた目でこちらを見ていたのでそっと腕をさすってやった。

「カーラを、わたし付きの侍女にして欲しいのです」

申し出に少し驚いた様子を見せたシエルだったが、ノエリアの手を握りにっこりと笑った。

「意外だな。きみがそうしたいならいいんじゃないか」

「ありがとうございます」

「なんと、不思議なこともあるのですね」

リウも驚いている。
たしかに、かつて晩餐会で貧乏人と罵ったカーラ、そして言葉を浴びせられたノエリアが並んでこの場にいるなんて不思議である。

「もうたぶん、喧嘩はしないから心配しないでね」

ね、とカーラに微笑むと彼女は涙を拭って「はい」と返事をした。

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