隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
第一章 後
第一章 後
「ノエリア!」
勢いよく開いたドアから愛する彼が飛び込んできて、ノエリアは泣きたくなるような幸福感で胸がいっぱいになる。
美しい緑色の瞳は左右の色が微妙に違っていて、子供の頃に怪我をしたために隻眼で左瞼に傷がある。美しくて自分だけを見つめてくれて、ノエリアが大好きな瞳だ。
背の高い彼に抱きすくめられて足が床から浮いた。
「なかなか来られなくてごめん」
「三日も会えないんだもの」
ノエリアはシエルの黒髪を撫で、首に腕を巻き付けて匂いを嗅いだ。ほっとする匂い。頬を擦りつけると彼の肌はカサカサしていた。
(シエル様の肌、こんなに乾燥していたかしら)
保湿用の軟膏を作ってあげようかしらと思う。
「ノエリア様。ちょっと、ノエリア様」
肩を揺すられ、意識が浮上すると目の前に困り顔のリウがいた。ため息をつきながらノエリアが突っ伏していた本をそっと顔の下から引き抜く。
「本に涎がついてしまいます」
「……ごめんなさい」
(なんだ。夢か)
がっかりしたので大きなため息が出てしまった。
「居眠りしていたのに大きなため息とは」
「ご、ごめんなさい」
再び謝罪すると涎を心配して口元を拭った。
ノエリア・ヒルヴェラ。金髪は豊かに背中へ流れ、白い肌に茶色の瞳が瞬く。
ドラザーヌ王国リンドベリ国王の王宮、ここはとある一室。
ドラザーヌ王国には厳しい冬が来た。昨夜降った雪は朝には止んで、窓から見える庭園が積もった雪でキラキラ光っている。日差しが暖かいから少しは溶けるだろうか。
ヒルヴェラの森もそうだが、このあたりは常緑樹が多く生い茂り、冬でも緑豊かな景色が広がる。
外はもちろん寒いのだけれど、窓からの日差しと暖炉の炎も眠気を誘うのだ。
大きな机の上に何冊も積み上げられた本、ペンとノート。それらに埋もれて難しい顔をしているふたり。
ノエリアは反省しているが歴史の勉強が苦痛で仕方がない。苦笑を浮かべるリウ。茶色の髪、そして青色の瞳と王国の人間が持つ特徴と整った顔立ちのリウ。シエルには静かに冷えた月光が似合うが、リウは太陽の光が似合う青年だ。
「お勉強の途中ですよ」
「眠い。リウ様、わたしはもうだめです」
「まだ終わっていません。もうちょっとがんばってくださいませ……」
「わたし、本を読むのは好きなのだけれど、歴史書は苦手……頭が痛い……王家は三代まで覚えたらいいのでは……」
リンドベリ家は歴史が長いので歴代国王の名前を覚えるにもひと苦労である。
「シエル様とお約束したではありませんか。さぁ、続きを。なにかご質問は?」
「ハイ、先生」
どうぞ、とリウが促す手振りをする。
「記憶力がよくなる秘訣はなんですか」
「わたしは1回見たら覚えるので秘訣などありません」
リウの返答にノエリアはため息をついた。
昼食のあと、王国の歴史について学ぶ時間だった。お腹が満たされたあとに分厚い本を読んだって頭に入らない。
「ノエリア!」
勢いよく開いたドアから愛する彼が飛び込んできて、ノエリアは泣きたくなるような幸福感で胸がいっぱいになる。
美しい緑色の瞳は左右の色が微妙に違っていて、子供の頃に怪我をしたために隻眼で左瞼に傷がある。美しくて自分だけを見つめてくれて、ノエリアが大好きな瞳だ。
背の高い彼に抱きすくめられて足が床から浮いた。
「なかなか来られなくてごめん」
「三日も会えないんだもの」
ノエリアはシエルの黒髪を撫で、首に腕を巻き付けて匂いを嗅いだ。ほっとする匂い。頬を擦りつけると彼の肌はカサカサしていた。
(シエル様の肌、こんなに乾燥していたかしら)
保湿用の軟膏を作ってあげようかしらと思う。
「ノエリア様。ちょっと、ノエリア様」
肩を揺すられ、意識が浮上すると目の前に困り顔のリウがいた。ため息をつきながらノエリアが突っ伏していた本をそっと顔の下から引き抜く。
「本に涎がついてしまいます」
「……ごめんなさい」
(なんだ。夢か)
がっかりしたので大きなため息が出てしまった。
「居眠りしていたのに大きなため息とは」
「ご、ごめんなさい」
再び謝罪すると涎を心配して口元を拭った。
ノエリア・ヒルヴェラ。金髪は豊かに背中へ流れ、白い肌に茶色の瞳が瞬く。
ドラザーヌ王国リンドベリ国王の王宮、ここはとある一室。
ドラザーヌ王国には厳しい冬が来た。昨夜降った雪は朝には止んで、窓から見える庭園が積もった雪でキラキラ光っている。日差しが暖かいから少しは溶けるだろうか。
ヒルヴェラの森もそうだが、このあたりは常緑樹が多く生い茂り、冬でも緑豊かな景色が広がる。
外はもちろん寒いのだけれど、窓からの日差しと暖炉の炎も眠気を誘うのだ。
大きな机の上に何冊も積み上げられた本、ペンとノート。それらに埋もれて難しい顔をしているふたり。
ノエリアは反省しているが歴史の勉強が苦痛で仕方がない。苦笑を浮かべるリウ。茶色の髪、そして青色の瞳と王国の人間が持つ特徴と整った顔立ちのリウ。シエルには静かに冷えた月光が似合うが、リウは太陽の光が似合う青年だ。
「お勉強の途中ですよ」
「眠い。リウ様、わたしはもうだめです」
「まだ終わっていません。もうちょっとがんばってくださいませ……」
「わたし、本を読むのは好きなのだけれど、歴史書は苦手……頭が痛い……王家は三代まで覚えたらいいのでは……」
リンドベリ家は歴史が長いので歴代国王の名前を覚えるにもひと苦労である。
「シエル様とお約束したではありませんか。さぁ、続きを。なにかご質問は?」
「ハイ、先生」
どうぞ、とリウが促す手振りをする。
「記憶力がよくなる秘訣はなんですか」
「わたしは1回見たら覚えるので秘訣などありません」
リウの返答にノエリアはため息をついた。
昼食のあと、王国の歴史について学ぶ時間だった。お腹が満たされたあとに分厚い本を読んだって頭に入らない。