隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
(気分転換をしたほうがいいかも)
そう考えたときにカーラが姿を見せた。ノエリアは目を逸らしてしまう。
「ノエリア様。シエル様からお預かりしたものがあります。ノエリア様にと、これを」
カーラが小さな箱をノエリアに差し出した。
中身を改めると、花びらの砂糖漬けだった。本来なら喜ぶべきなのに、なぜかノエリアの心にはモヤモヤとした嫌な気持ちが広がった。
「ノエリア様は、元気にしているのかと心配してらっしゃいました」
なぜシエルの伝言をカーラから聞かねばならないのか。
「カーラはシエル様に会ったの?」
「あ、はい。受け渡しだけ」
会ったと言われるとモヤモヤした思いが熱を持つ。不快な熱だった。
「あなたもこれ、いただいたの?」
「え? いいえ……ノエリア様?」
ノエリアの問いかけに、カーラは不思議そうに首を傾げる。
(わたしには会いに来ないのに、カーラに用事を頼むのね)
そこまで考えて、いったい自分はなにを思っているのだと恥ずかしくなった。
(こんな風に嫉妬するなんて、わたし自分が嫌いになりそう)
自己嫌悪に陥り、ノエリアは読んでいた本に顔を埋めた。
「どうなさったのですか? ノエリア様」
サラも心配している。
ノエリアはそれ以上なにも言わず、うなだれたままサラとカーラに伴われ昼食を取るために部屋を出た。そして黙ってひとりの昼食を終え、さて午後からの時間をどう過ごそうかと考えた。
サラとカーラと一緒にではなく、ひとりで過ごしたかった。ノエリアは、シエルから貰ったお菓子とティーセットと読みかけの本を持って、温室に向かった。
部屋にはちゃんと行き先を記してきた。行動制限をかけられてはいないので現在は好きな場所に行ことができる。
通路を通って、曇り空を窓に張り付けた温室にたどり着く。
(この空模様だと雪が降りそうね)
外はぎゅっと寒いはず。ここは暖かいし、ストールも持ってきた。
温室のテーブルセットに持ち物を置き、お茶を入れた。ふわりといい香りが立ち上り、気持ちが落ち着く。花びらの砂糖漬けをひとつつまんで口に入れた。唾液に溶かされた甘みが口に広がるとふっと頬が綻んだ。
いま、シエルは国のために一生懸命だろう。姿を見なくても分かることだ。
けれど、一緒にいたい、自分だけを見ていて欲しいという身勝手な欲求も沸き上がってくる。
(自分のこと、もう少し落ち着いて物事を考えられる人間だと思っていたわ)
恋心を知り、愛を感じる。そしてもっと先を望む。ふたりの思いが通じたら貪欲になるのだ。それがたとえ勝手な欲望だと分かっても。こんな自分、王妃など務まるのだろうか。ノエリアは髪が乱れるのも構わず「うー」と唸りながら頭を掻いた。その時だった。
「猫でも唸っているのかと思いましたよ」
コンコンと窓を叩く音と声が聞こえた。顔を上げると、目の前にいたのはマリウスだった。
「マリウス様!」
「お加減でも悪いのでしょうか?」
「いいえ。ちょっと考え事をしていて」
はしたないところを見られてしまった。ノエリアは髪を撫でつけて整える。マリウスは窓越しにニコニコとノエリアを見ている。邪気のない笑顔でノエリアはなんとなく気持ちが解れた。
「……寒くありませんか? あのマリウス様、中に入りませんか?」
マリウスは服の上にマントを着けていて暖かそうだけれど、息は白い。
「怒られませんかね。カーラ様に」
「いま、わたしひとりなんです。それにカーラはもう怒りませんよ」
入口はあっちだと指さす。ふっと笑いながら、マリウスは出入口へ回り込み温室内に入ってきた。
そう考えたときにカーラが姿を見せた。ノエリアは目を逸らしてしまう。
「ノエリア様。シエル様からお預かりしたものがあります。ノエリア様にと、これを」
カーラが小さな箱をノエリアに差し出した。
中身を改めると、花びらの砂糖漬けだった。本来なら喜ぶべきなのに、なぜかノエリアの心にはモヤモヤとした嫌な気持ちが広がった。
「ノエリア様は、元気にしているのかと心配してらっしゃいました」
なぜシエルの伝言をカーラから聞かねばならないのか。
「カーラはシエル様に会ったの?」
「あ、はい。受け渡しだけ」
会ったと言われるとモヤモヤした思いが熱を持つ。不快な熱だった。
「あなたもこれ、いただいたの?」
「え? いいえ……ノエリア様?」
ノエリアの問いかけに、カーラは不思議そうに首を傾げる。
(わたしには会いに来ないのに、カーラに用事を頼むのね)
そこまで考えて、いったい自分はなにを思っているのだと恥ずかしくなった。
(こんな風に嫉妬するなんて、わたし自分が嫌いになりそう)
自己嫌悪に陥り、ノエリアは読んでいた本に顔を埋めた。
「どうなさったのですか? ノエリア様」
サラも心配している。
ノエリアはそれ以上なにも言わず、うなだれたままサラとカーラに伴われ昼食を取るために部屋を出た。そして黙ってひとりの昼食を終え、さて午後からの時間をどう過ごそうかと考えた。
サラとカーラと一緒にではなく、ひとりで過ごしたかった。ノエリアは、シエルから貰ったお菓子とティーセットと読みかけの本を持って、温室に向かった。
部屋にはちゃんと行き先を記してきた。行動制限をかけられてはいないので現在は好きな場所に行ことができる。
通路を通って、曇り空を窓に張り付けた温室にたどり着く。
(この空模様だと雪が降りそうね)
外はぎゅっと寒いはず。ここは暖かいし、ストールも持ってきた。
温室のテーブルセットに持ち物を置き、お茶を入れた。ふわりといい香りが立ち上り、気持ちが落ち着く。花びらの砂糖漬けをひとつつまんで口に入れた。唾液に溶かされた甘みが口に広がるとふっと頬が綻んだ。
いま、シエルは国のために一生懸命だろう。姿を見なくても分かることだ。
けれど、一緒にいたい、自分だけを見ていて欲しいという身勝手な欲求も沸き上がってくる。
(自分のこと、もう少し落ち着いて物事を考えられる人間だと思っていたわ)
恋心を知り、愛を感じる。そしてもっと先を望む。ふたりの思いが通じたら貪欲になるのだ。それがたとえ勝手な欲望だと分かっても。こんな自分、王妃など務まるのだろうか。ノエリアは髪が乱れるのも構わず「うー」と唸りながら頭を掻いた。その時だった。
「猫でも唸っているのかと思いましたよ」
コンコンと窓を叩く音と声が聞こえた。顔を上げると、目の前にいたのはマリウスだった。
「マリウス様!」
「お加減でも悪いのでしょうか?」
「いいえ。ちょっと考え事をしていて」
はしたないところを見られてしまった。ノエリアは髪を撫でつけて整える。マリウスは窓越しにニコニコとノエリアを見ている。邪気のない笑顔でノエリアはなんとなく気持ちが解れた。
「……寒くありませんか? あのマリウス様、中に入りませんか?」
マリウスは服の上にマントを着けていて暖かそうだけれど、息は白い。
「怒られませんかね。カーラ様に」
「いま、わたしひとりなんです。それにカーラはもう怒りませんよ」
入口はあっちだと指さす。ふっと笑いながら、マリウスは出入口へ回り込み温室内に入ってきた。