隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
「へぇ、ここはこんなに暖かいんだなぁ」
言いながらマリウスはマントを外した。
「おひとりですか? シエル様たちと一緒なのかと思っていました」
「いまちょっと皆の様子を見に訓練棟に行って来たんです」
「なにか不自由ありませんか?」
「いいえ。手厚くしていただいています。シエル陛下は大変にお優しい方だ」
シエルを褒められるとノエリアも嬉しくなる。
「お座りになって。紅茶いかが?」
「これは……申し訳ない。いただきます」
マリウスはどっかりと椅子に腰を下ろした。恐縮するマリウスだったがノエリアは紅茶を煎れた。
「マリウス様、状況はどうですか? 差し支えなければ教えてくださいませんか」
美味しそうに紅茶を飲むマリウスを待ち、ノエリアは問いかける。
「偵察隊からまだなにも連絡はありません。どのようにドラザーヌに攻めてくるつもりなのか皆目見当がつきませんから、とにかく注意をしなければ」
「北側国境から真っ直ぐに来るなら、王宮の森に突き当たります。そこに潜伏されると怖いですよね。すぐ王宮があるし」
「自分より大きな国を攻めるのですから、おそらく中央を叩くでしょう。俺ならば、そうします」
ノエリアは恐怖を覚えて震えた。戦略がどう練られているのかノエリアには想像もつかないのだけれど。
「またノエリア様を怖がらせてしましました。陛下に叱られる」
おどけたように笑うマリウス。
「マリウス様、シエル様に会えて本当に嬉しそうですね」
「そりゃぁもう。自分が胸を患い俺が一人前になるまで生きていられないと思った母は、まだ幼い俺に前国王とのことをうち明けてくれたのです。知らなかったら騎士団志望もなかったでしょう。俺がこうしているのも、シエル陛下への憧れがあったから。感謝しています」
ドラザーヌとガルデが友好関係にあってよかったとノエリアは思う。シエルの国王としての評判はガルデにも伝わっているのだから。
「シエル陛下は若くして国王に即位されたときも、ガルデに知らせが届いていましたから俺は嬉しかった。尊敬しているしいつかお役に立ちたいと思っていた」
「素敵ですね。シエル様にもそうお話してさしあげてください」
腹違いの弟にこんなに慕われたら嬉しいだろうと思う。
「そうですね……戦いが終わって、シエル陛下が俺を認めてくれたら。きっと、この戦いに勝てばちゃんと俺を見てくれると思うのです」
笑っていたけれど少しだけマリウスの表情が曇る。
「まだきっと、俺を弟だと受け入れられないでいるのだと思います。まぁ、当たり前か」
「どうでしょうか……」
ノエリアはどう返事をしたらよいのか分からなくて黙っていた。
(わたしだってシエル様の胸の内を聞きたいけれど、会えないんだもの)
「俺はどうも繊細じゃないから。シエル陛下と性格が逆なのかもしれませんね。押しつけの思いは逆に嫌煙されるでしょう」
マリウスの言葉にはっとなる。まるでノエリアは自分のことを言われていると思った。身勝手なノエリアの思いはシエルを困らせるばかりか嫌われてしまうのではないか。思わず視線を落として考え込みそうになった。
「でもね、思い描いていた兄上そのままで、俺は嬉しいんです」
頬を上気させてそう言うマリウスは、兄を慕う弟の顔だった。
(やっと会えて本当に嬉しいのね)
「マリウス様って、なんでも真っ直ぐ素直ですね」
「そうでしょうか。ご気分を害したなら申し訳ない」
「素敵なことだなと思っているのです」
「俺は騎士団長です。戦があれば真っ先にただ中に飛び込む。単騎でも俺は躊躇わない。死ぬかもしれない。だから伝えたいことはきちんと自分の言葉で言わないと」
「そう、ですね」
シエルの顔を思い浮かべながら、自分はどうなのだろうとノエリアは目を閉じる。
「シエル陛下とノエリア様の御婚約はガルデでも祝福ムードなんです。出会いから陛下の告白とかもう皆が感動し真似して、恋人や妻に愛を囁くんですよ」
なんだか聞いたことのある話だなと思ったのでノエリアはふっと笑う。
「それ、シエル様に言ったら恥ずかしがって部屋から出てこなくなりますよ」
「ひゃー。そうなんですか?」
「同じようなことがドラザーヌでも流行りました。大変だったんですよ。リウ様と一緒に宥めてやっと部屋から出たんです」
マリウスはさも楽しそうに目を細めてノエリアを見た。
言いながらマリウスはマントを外した。
「おひとりですか? シエル様たちと一緒なのかと思っていました」
「いまちょっと皆の様子を見に訓練棟に行って来たんです」
「なにか不自由ありませんか?」
「いいえ。手厚くしていただいています。シエル陛下は大変にお優しい方だ」
シエルを褒められるとノエリアも嬉しくなる。
「お座りになって。紅茶いかが?」
「これは……申し訳ない。いただきます」
マリウスはどっかりと椅子に腰を下ろした。恐縮するマリウスだったがノエリアは紅茶を煎れた。
「マリウス様、状況はどうですか? 差し支えなければ教えてくださいませんか」
美味しそうに紅茶を飲むマリウスを待ち、ノエリアは問いかける。
「偵察隊からまだなにも連絡はありません。どのようにドラザーヌに攻めてくるつもりなのか皆目見当がつきませんから、とにかく注意をしなければ」
「北側国境から真っ直ぐに来るなら、王宮の森に突き当たります。そこに潜伏されると怖いですよね。すぐ王宮があるし」
「自分より大きな国を攻めるのですから、おそらく中央を叩くでしょう。俺ならば、そうします」
ノエリアは恐怖を覚えて震えた。戦略がどう練られているのかノエリアには想像もつかないのだけれど。
「またノエリア様を怖がらせてしましました。陛下に叱られる」
おどけたように笑うマリウス。
「マリウス様、シエル様に会えて本当に嬉しそうですね」
「そりゃぁもう。自分が胸を患い俺が一人前になるまで生きていられないと思った母は、まだ幼い俺に前国王とのことをうち明けてくれたのです。知らなかったら騎士団志望もなかったでしょう。俺がこうしているのも、シエル陛下への憧れがあったから。感謝しています」
ドラザーヌとガルデが友好関係にあってよかったとノエリアは思う。シエルの国王としての評判はガルデにも伝わっているのだから。
「シエル陛下は若くして国王に即位されたときも、ガルデに知らせが届いていましたから俺は嬉しかった。尊敬しているしいつかお役に立ちたいと思っていた」
「素敵ですね。シエル様にもそうお話してさしあげてください」
腹違いの弟にこんなに慕われたら嬉しいだろうと思う。
「そうですね……戦いが終わって、シエル陛下が俺を認めてくれたら。きっと、この戦いに勝てばちゃんと俺を見てくれると思うのです」
笑っていたけれど少しだけマリウスの表情が曇る。
「まだきっと、俺を弟だと受け入れられないでいるのだと思います。まぁ、当たり前か」
「どうでしょうか……」
ノエリアはどう返事をしたらよいのか分からなくて黙っていた。
(わたしだってシエル様の胸の内を聞きたいけれど、会えないんだもの)
「俺はどうも繊細じゃないから。シエル陛下と性格が逆なのかもしれませんね。押しつけの思いは逆に嫌煙されるでしょう」
マリウスの言葉にはっとなる。まるでノエリアは自分のことを言われていると思った。身勝手なノエリアの思いはシエルを困らせるばかりか嫌われてしまうのではないか。思わず視線を落として考え込みそうになった。
「でもね、思い描いていた兄上そのままで、俺は嬉しいんです」
頬を上気させてそう言うマリウスは、兄を慕う弟の顔だった。
(やっと会えて本当に嬉しいのね)
「マリウス様って、なんでも真っ直ぐ素直ですね」
「そうでしょうか。ご気分を害したなら申し訳ない」
「素敵なことだなと思っているのです」
「俺は騎士団長です。戦があれば真っ先にただ中に飛び込む。単騎でも俺は躊躇わない。死ぬかもしれない。だから伝えたいことはきちんと自分の言葉で言わないと」
「そう、ですね」
シエルの顔を思い浮かべながら、自分はどうなのだろうとノエリアは目を閉じる。
「シエル陛下とノエリア様の御婚約はガルデでも祝福ムードなんです。出会いから陛下の告白とかもう皆が感動し真似して、恋人や妻に愛を囁くんですよ」
なんだか聞いたことのある話だなと思ったのでノエリアはふっと笑う。
「それ、シエル様に言ったら恥ずかしがって部屋から出てこなくなりますよ」
「ひゃー。そうなんですか?」
「同じようなことがドラザーヌでも流行りました。大変だったんですよ。リウ様と一緒に宥めてやっと部屋から出たんです」
マリウスはさも楽しそうに目を細めてノエリアを見た。