隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
ドレスをたくし上げて走った。そして自室に飛び込んでベッドに身を投げる。
(言ってしまった。シエル様はもうわたしに会いたくないかもしれない)
まだ正式な夫婦になっていないから、もしかしたら婚約を破棄されるかもしれない。もしそうなったらどうしたらいいのだ。
激しく後悔していた。自分以外を見ないで欲しいなんて自分勝手過ぎる。けれど正直な気持ちなのだ。
(もう後には戻れない。これできっとわたしに呆れるわ。シエル様の心が離れてカーラに完全に行ってしまうことがあったら耐えられない)
溢れる涙はなにを意味するのだろう。嫉妬に狂った涙などなにも美しくない。汚くて恐ろしくて、浅ましい。自分がなにか得体の知れないものになったみたいで、ノエリアは苦しかった。
ベッドに顔を埋めて泣いていると、ドアがノックされた。
「誰?」
「ノエリア様、カーラです」
どうしてこのタイミングで彼女が出てくるのだろうか。ノエリアはますます腹立たしく、そんな自分が情けなくなった。
「ど、どうなさいました? いま走って行くのを見かけてノエリア様の様子が……」
「お願い、入ってこないで!」
情けない泣き顔を見られる。それに抑えの効かない心からきっとカーラに酷いことを言ってしまう。
「なんでもない。夕食は食べたくないの。ひとりにして」
ノエリアの言葉を無視するようにドアは開かれ、カーラが入ってくる。
「ノエリア様。どうなさったのです」
「どうして入ってくるの。わたしはいま、あなたに会いたくない」
(こんなことを言いたいわけじゃないのに!)
心とは裏腹の言葉が口から出る。このように泣いているところを見られたくなかったのに。
「どうしてシエル様はカーラにお菓子を頼んだの? 会っていたんでしょ? あなたがわたし付きの侍女になったのもシエル様にまた近付きたかったから。忘れられないのでしょう? もとはあなたが王妃候補だったものね」
「ノエリア様……いったいなにを?」
「カーラは、まだシエル様を好きなんでしょう? だから妾の話があるんでしょう?」
涙を零しながら言うとカーラの表情が変わった。それが返事なのだ。ノエリアはますます絶望していく。
「なぜあなたがここへと思ったけれど、妾の話があったからなのね。だから王宮に上がった。ううん、もしかしたら逆なのかもしれない。なにも知らないのはわたしだけで、シエル様は、あなたを美しいと……」
(もう嫌。消えてなくなりたい)
「シエル様が他の女性をそばに置くなんて、そんなの」
ノエリアはベッドから顔を上げてボロボロと泣きながらカーラに言葉を吐く。カーラは困惑の表情を浮かべて、ノエリアを見ていた。
「ノエリア様、なにを言っているの? わたし……」
カーラがノエリアに手を差し出したとき、開けたままのドアからひょっこり顔を出したのはリウだった。
「ごきげんよう~カーラ殿!」
不穏な場面に陽気な挨拶が不釣り合い。リウからは見えないはずだけれどノエリアは急いで後ろを向いた。
「カーラ殿を見かけたから追いかけてきたんです。この間いただいたスカーフ……」
大慌ての様子でカーラが両手を振りノエリアを隠そうとした。
「ちょ……リウ様! 入ってこないでください! ここはノエリア様のお部屋です!」
「はっ! おひとりかと思ったもので、カーラ殿にお声かけたくて。ノエリア様もいらっしゃったのですか」
リウはぱっと顔を引っ込めて、廊下から声だけをかけてきた。
「カーラ殿、スカーフ気に入りました。うれしかったです」
「そ、そんな、その……リウ様に似合うかなぁって思って、先日職人が来たときに生地を選んだんです……」
カーラは真っ赤な顔をしてスカートを力一杯握っている。
「……カーラ?」
(リウ様にカーラが贈り物? 真っ赤になっているし。え、まさか?)
(言ってしまった。シエル様はもうわたしに会いたくないかもしれない)
まだ正式な夫婦になっていないから、もしかしたら婚約を破棄されるかもしれない。もしそうなったらどうしたらいいのだ。
激しく後悔していた。自分以外を見ないで欲しいなんて自分勝手過ぎる。けれど正直な気持ちなのだ。
(もう後には戻れない。これできっとわたしに呆れるわ。シエル様の心が離れてカーラに完全に行ってしまうことがあったら耐えられない)
溢れる涙はなにを意味するのだろう。嫉妬に狂った涙などなにも美しくない。汚くて恐ろしくて、浅ましい。自分がなにか得体の知れないものになったみたいで、ノエリアは苦しかった。
ベッドに顔を埋めて泣いていると、ドアがノックされた。
「誰?」
「ノエリア様、カーラです」
どうしてこのタイミングで彼女が出てくるのだろうか。ノエリアはますます腹立たしく、そんな自分が情けなくなった。
「ど、どうなさいました? いま走って行くのを見かけてノエリア様の様子が……」
「お願い、入ってこないで!」
情けない泣き顔を見られる。それに抑えの効かない心からきっとカーラに酷いことを言ってしまう。
「なんでもない。夕食は食べたくないの。ひとりにして」
ノエリアの言葉を無視するようにドアは開かれ、カーラが入ってくる。
「ノエリア様。どうなさったのです」
「どうして入ってくるの。わたしはいま、あなたに会いたくない」
(こんなことを言いたいわけじゃないのに!)
心とは裏腹の言葉が口から出る。このように泣いているところを見られたくなかったのに。
「どうしてシエル様はカーラにお菓子を頼んだの? 会っていたんでしょ? あなたがわたし付きの侍女になったのもシエル様にまた近付きたかったから。忘れられないのでしょう? もとはあなたが王妃候補だったものね」
「ノエリア様……いったいなにを?」
「カーラは、まだシエル様を好きなんでしょう? だから妾の話があるんでしょう?」
涙を零しながら言うとカーラの表情が変わった。それが返事なのだ。ノエリアはますます絶望していく。
「なぜあなたがここへと思ったけれど、妾の話があったからなのね。だから王宮に上がった。ううん、もしかしたら逆なのかもしれない。なにも知らないのはわたしだけで、シエル様は、あなたを美しいと……」
(もう嫌。消えてなくなりたい)
「シエル様が他の女性をそばに置くなんて、そんなの」
ノエリアはベッドから顔を上げてボロボロと泣きながらカーラに言葉を吐く。カーラは困惑の表情を浮かべて、ノエリアを見ていた。
「ノエリア様、なにを言っているの? わたし……」
カーラがノエリアに手を差し出したとき、開けたままのドアからひょっこり顔を出したのはリウだった。
「ごきげんよう~カーラ殿!」
不穏な場面に陽気な挨拶が不釣り合い。リウからは見えないはずだけれどノエリアは急いで後ろを向いた。
「カーラ殿を見かけたから追いかけてきたんです。この間いただいたスカーフ……」
大慌ての様子でカーラが両手を振りノエリアを隠そうとした。
「ちょ……リウ様! 入ってこないでください! ここはノエリア様のお部屋です!」
「はっ! おひとりかと思ったもので、カーラ殿にお声かけたくて。ノエリア様もいらっしゃったのですか」
リウはぱっと顔を引っ込めて、廊下から声だけをかけてきた。
「カーラ殿、スカーフ気に入りました。うれしかったです」
「そ、そんな、その……リウ様に似合うかなぁって思って、先日職人が来たときに生地を選んだんです……」
カーラは真っ赤な顔をしてスカートを力一杯握っている。
「……カーラ?」
(リウ様にカーラが贈り物? 真っ赤になっているし。え、まさか?)