隻眼王の愛のすべて  < コウ伝 >
カーラとサラも一緒に夕食を取り、その後はカーラの部屋に招かれたので三人で過ごすことにした。カーラが料理人に頼んでたくさんのケーキと焼き菓子を用意してくれていたのだ。葡萄酒もある。

サラには、妾の話は事実無根であり予定はないこと、そしてカーラには思いを寄せるひとがいるということを話し、きちんと誤解を解いた。カーラの相手が誰かは言わなかったが。サラは根も葉もない噂に振り回されたことを恥じていたが、それはノエリアも同じだった。

「それではノエリア様、おやすみなさいませ」

誤解が解けたあとの楽しい時間を終えてサラとカーラに手を振り、ノエリア自室に入ろうとドアを開けた。

部屋を出るときには灯していなかった燭台がゆらりと炎を乗せている。誰か侍女が点けてくれたのだろうか。

「遅かったな」

「ひぃえぇ」

背後から声がしたから驚いたノエリアは変な声を出した。声の主はシエル。

「シ、シエル様ぁ!」

「夕食後に時間が出来たから部屋に来てみればいないし。執事に聞いたらカーラの部屋へ行ったようだと言われた」

不機嫌そうな顔でそう言うので、ノエリアが慌ててしまう。

「ちょっと、お話をしていました。ひとりの夕食も味気ないので……会話も弾んで、つい」

腕を組み壁により掛かっていたシエルはノエリアの手を引いた。昼間、あんなことがあったから正面から顔を見られない。

「葡萄酒の香りがする」

「少し飲みました……」

実は、三人で盛り上がってしまいけっこうな量を飲んだのだ。すぐベッドに入って寝てしまおうと思っていたところだったのに。

(どうしよう。飲み過ぎたのよね)

こんな時に限って、とノエリアは頬に手を当てた。

「酔っているのか? 俺がいなくてもけっこう楽しく過ごしているんだな」

「そ、そんなことありません」

シエルが口を尖らせている。こんな顔をするのは珍しい。

「ノエリア。昼間のあれはなんだったんだ? ちゃんと言ってごらん」

取り乱しおかしなことを言った自覚があるから、恥ずかしくてたまらない。しかも勘違いが招いた。

「あの……お手紙を書きました。届けていただくようお願いしたのですが」

「貰ったよ。読んではいないが」

シエルはノエリアを片手で抱きながら懐から封筒を出した。手紙を読んで貰えなかったことに少しがっかりした顔をしてしまう。

「すみません。お手紙もご迷惑でした……」

なにもかも自分勝手だったのだなと気付いて、ノエリアは再び自己嫌悪に陥る。
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