隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
部屋に戻ったノエリアは、マリウスが来てから開いていなかった歴史書を手にした。
そして隣国と国交、地図が掲載されたページを見ていた。
ドラザーヌとガルデそれぞれの特産物や関係性。そしてソラゾの規模と位置などを指で追いながら。
歴代の国王、王家の系図。ドラザーヌはシエルが一番新しい国王だ。前国王と王妃には王子がふたり。うちシエルの兄が他界。マリウスのことは書かれていない。
(当たり前よね……)
前国王と王妃、そして兄を亡くしたシエル。血の繋がった家族といえる者はいない。自分が妻になるが、やはり兄弟となればまた違うだろう。
マリウスはシエルをあんなに慕っている。できればこれからいい関係を築いていって欲しいと思うのだが。
勝手な思いだと分かっているけれど。シエルとマリウスは同じ世界で暮らしてはいけないかもしれないけれど。心があるはずだと思ったから。
豊かな森と川に囲まれたドラザーヌ。海の恵み豊かな花の国ガルデ。火山の国ソラゾ。
いまこの三つの国が交わろうとしている。その先になにがあるのだろうか。
ドラザーヌはまるで森に幾重にも囲まれているような国だ。歴代の国王が運河を整備し物流が円滑になり国が栄えた。平和で美しい国なのに。
ノエリアはため息をついた。その時、ドアが開く音がしたので振り向くと入ってきたのはシエルだった。
「あ、シエル様……!」
いつの間にか窓の外には夕暮れが広がっている。ノエリアは本を片付けて明かりを点ける。
「勉強中だったのか?」
「いいえ。少し考え事をしていて。シエル様は休憩ですか?」
「ああ、そんなところだ」
またこの時間に会えるなんて嬉しい。けれどシエルが浮かない表情なので心配になる。
「夕食、一緒に行きましょうか。もうすぐですし」
問いかけてもシエルは返事をしないので、なんだか落ち込んでいる様子に見える。なにかあったのだろうか。シエルはゆっくり移動してソファに腰を下ろした。
「ノエリア、その……昼間はすまなかった」
シエルが静かに言い、ノエリアはそばに寄り隣に座る。
「ジャムケーキ美味しかったよ。皆がきみたちの気遣いに喜んでいたよ。ありがとう」
「よかったです。カーラとサラとみんなで作ったんですよ」
シエルはやっと笑ってくれた。ノエリアの肩を抱いて「ごめん」と言う。
「なんかみっともないところを見せてしまった。まさかあそこにきみが来ると思わなくてな。あれはリウの言うとおり、嫉妬だ」
羞恥のせいか、手で顔を覆うシエルは肩を落として溜息までついている。
「シエル様、そんなにならなくても……」
「血の繋がりがあると思ったら、なんだかマリウスが気になって。誰にも言わないでくれよ。こんなこと、きみにしか言えないんだから」
(立場上言えないし言いたくないかもしれない。わたしのことでなんて……リウ様には気付かれているけれど)
「重要な会議をしているというのに情けない。きみのこととなるとどうしても……」
ノエリアの肩を抱いたままで自分を笑っていた。愛してくれているのは嬉しいのだけれど。
「神経質になっているときに気が削がれるようなことがあったのなら仕方がないと思います」
「ガルデ騎士団に関するところはマリウスに任せればいいのに、俺も把握のために聞きたいことがあったりして……それなのに休憩の間はノエリアに会いに行ってはなどと言われてカッとなった」
冷静なひとであるのに。シエルは恥ずかしそうにしている。
「ノエリアが寂しそうだなんて俺が一番感じるのに。なぜマリウスがノエリアの心を気付くんだ、それに勝手に見るんじゃないと思ったりして。ノエリアは俺のだ」
ノエリアの体に腕を回して抱き寄せるシエル。
「ねぇ、シエル様。わたしたち嫉妬しあっているのね」
ちゃんとふたりの思いは合わさっているのにこうして抱き合って、確かめているのに。
「お互いの気持ちを確かめ合うのに、こんな風にしかできないなんて不器用だな」
愛情は時に強欲で、身勝手だ。
信じたいのにできないなんて、どうしてこうも扱いにくいのだろうか。
「俺は、ノエリアを愛しているし誰にも渡したくないんだ」
「わたしも同じ」
そして誰も間に入ることはできないのに、勝手に不安になってしまうのだ。ふたり視線を合わせてふっと笑う。シエルの硬かった目の光は柔らかくなったのでノエリアは安心する。
そして隣国と国交、地図が掲載されたページを見ていた。
ドラザーヌとガルデそれぞれの特産物や関係性。そしてソラゾの規模と位置などを指で追いながら。
歴代の国王、王家の系図。ドラザーヌはシエルが一番新しい国王だ。前国王と王妃には王子がふたり。うちシエルの兄が他界。マリウスのことは書かれていない。
(当たり前よね……)
前国王と王妃、そして兄を亡くしたシエル。血の繋がった家族といえる者はいない。自分が妻になるが、やはり兄弟となればまた違うだろう。
マリウスはシエルをあんなに慕っている。できればこれからいい関係を築いていって欲しいと思うのだが。
勝手な思いだと分かっているけれど。シエルとマリウスは同じ世界で暮らしてはいけないかもしれないけれど。心があるはずだと思ったから。
豊かな森と川に囲まれたドラザーヌ。海の恵み豊かな花の国ガルデ。火山の国ソラゾ。
いまこの三つの国が交わろうとしている。その先になにがあるのだろうか。
ドラザーヌはまるで森に幾重にも囲まれているような国だ。歴代の国王が運河を整備し物流が円滑になり国が栄えた。平和で美しい国なのに。
ノエリアはため息をついた。その時、ドアが開く音がしたので振り向くと入ってきたのはシエルだった。
「あ、シエル様……!」
いつの間にか窓の外には夕暮れが広がっている。ノエリアは本を片付けて明かりを点ける。
「勉強中だったのか?」
「いいえ。少し考え事をしていて。シエル様は休憩ですか?」
「ああ、そんなところだ」
またこの時間に会えるなんて嬉しい。けれどシエルが浮かない表情なので心配になる。
「夕食、一緒に行きましょうか。もうすぐですし」
問いかけてもシエルは返事をしないので、なんだか落ち込んでいる様子に見える。なにかあったのだろうか。シエルはゆっくり移動してソファに腰を下ろした。
「ノエリア、その……昼間はすまなかった」
シエルが静かに言い、ノエリアはそばに寄り隣に座る。
「ジャムケーキ美味しかったよ。皆がきみたちの気遣いに喜んでいたよ。ありがとう」
「よかったです。カーラとサラとみんなで作ったんですよ」
シエルはやっと笑ってくれた。ノエリアの肩を抱いて「ごめん」と言う。
「なんかみっともないところを見せてしまった。まさかあそこにきみが来ると思わなくてな。あれはリウの言うとおり、嫉妬だ」
羞恥のせいか、手で顔を覆うシエルは肩を落として溜息までついている。
「シエル様、そんなにならなくても……」
「血の繋がりがあると思ったら、なんだかマリウスが気になって。誰にも言わないでくれよ。こんなこと、きみにしか言えないんだから」
(立場上言えないし言いたくないかもしれない。わたしのことでなんて……リウ様には気付かれているけれど)
「重要な会議をしているというのに情けない。きみのこととなるとどうしても……」
ノエリアの肩を抱いたままで自分を笑っていた。愛してくれているのは嬉しいのだけれど。
「神経質になっているときに気が削がれるようなことがあったのなら仕方がないと思います」
「ガルデ騎士団に関するところはマリウスに任せればいいのに、俺も把握のために聞きたいことがあったりして……それなのに休憩の間はノエリアに会いに行ってはなどと言われてカッとなった」
冷静なひとであるのに。シエルは恥ずかしそうにしている。
「ノエリアが寂しそうだなんて俺が一番感じるのに。なぜマリウスがノエリアの心を気付くんだ、それに勝手に見るんじゃないと思ったりして。ノエリアは俺のだ」
ノエリアの体に腕を回して抱き寄せるシエル。
「ねぇ、シエル様。わたしたち嫉妬しあっているのね」
ちゃんとふたりの思いは合わさっているのにこうして抱き合って、確かめているのに。
「お互いの気持ちを確かめ合うのに、こんな風にしかできないなんて不器用だな」
愛情は時に強欲で、身勝手だ。
信じたいのにできないなんて、どうしてこうも扱いにくいのだろうか。
「俺は、ノエリアを愛しているし誰にも渡したくないんだ」
「わたしも同じ」
そして誰も間に入ることはできないのに、勝手に不安になってしまうのだ。ふたり視線を合わせてふっと笑う。シエルの硬かった目の光は柔らかくなったのでノエリアは安心する。