隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
目覚めのきっかけはおそらくは、空気の揺れだった気がする。
明け方だった。シエルたちが旅立ったときと同じような空がカーテンの隙間から見えていた。早馬を駆ってきた騎士団員を手当てしたその夜、疲れてソファの上で眠っていたノエリアはなにかが気になって目が覚めた。
厚手のストールを肩に巻き窓辺に寄る。
空は半分明るくなっていた。ふと視線をずらすと、遠くに小さく煉瓦作りの北側見張台が見える。なんとなしに見ているとなにかが細く空へ向かい立ち上っている。煙だと気付いた途端、見張台の頂から火が噴き出した。
(見張台が燃えている……!)
なぜあんなところで火の手が上がるのか。疑問に思う間にノエリアは部屋を飛び出し廊下を走って、王宮二階北側バルコニーに出た。
状況が分からないままに騒ぎ立てることはできない。目視でなにか確認したかった。
今朝は、雪は降らなかったが空気が冷たく乾燥していた。下を見ると雪がいくらか積もっている。
遠くに森、そのまたずっと向こうに小さく見える燃える見張台。ノエリアがバルコーまで出てくる間に炎が大きくなっていた。あれはなんなのだろう。
(攻撃か、それとも……助けを求める狼煙だったらどうしよう)
王宮のどこかで誰かが起きているとは思うけれど、いまこの状況を気付いているのが自分だけだったら。もしや、ソラゾ軍がこの森に入り火を放ったのだろうか。王宮すぐ近くに来ていたら。
そのうちのどれだとしても大変だ。自分の想像でしかないことだが足下から震えがくる。寒さのせいではない。
(誰かに知らせなきゃ。呼びに行かないと)
後ずさった時だった。
遠くに光が揺れてそれが松明だと気付いた。足下の雪を散らしながら進んでいるのは馬、こちらに向かってくる松明を持った騎馬だ。足を取られず走っているということは雪が堅いのかもしれない。
見張台に火を放ったのがあれなのだろうか。鳥肌が立って足がすくむ。
目を凝らすと騎馬が三つになった。こちらに真っ直ぐ走っている。雪を含む湿ったドドッという蹄の音が聞こえてくる。あとに続き森から次々に騎馬が走り出てくる。
大きな騎馬隊群の蹄の音はまるで地鳴りだ。
松明を持つ者を背に乗せた馬は葦毛だ。先の三騎はくるりと方向転換をし、それぞれが松明を持ち森へと戻っていく。バルコニーから身を乗り出して見ていると、群れの中にドラザーヌの旗を掲げるひとつの騎馬を見つけた。
我が国の騎馬だと分かるとカッと胸が熱くなって、ノエリアは手を振る。あちらに見えているかは分からない。
森から抜け出てきた大勢の騎馬隊は、ドラザーヌとガルデの軍だ。松明を持つ三騎が入った森に向かって雄叫びをあげ拳を突き上げている。
王宮に戻った騎士団の青年が言っていたことを思い出す。
(作戦。これがそうなのかもしれない)
森に火を放つなんて、なにがあるのだろう。白い息を吐き寒さも忘れて見ていると、もはや燃え崩れそうになっている北側見張台を中心にして円形に森から火の手が上がった。
悲鳴を上げそうになり、口を手で覆う。
「まさか、森に火を点けているの?」
そこでふと気付く。もしかして森に入っていた三騎はシエルとリウ、マリウスなのではないだろうか。松明を持ち森に入り、そして火を点けているのだ。なんのために。
燃えている森にいるなんて危険極まりない。
明け方だった。シエルたちが旅立ったときと同じような空がカーテンの隙間から見えていた。早馬を駆ってきた騎士団員を手当てしたその夜、疲れてソファの上で眠っていたノエリアはなにかが気になって目が覚めた。
厚手のストールを肩に巻き窓辺に寄る。
空は半分明るくなっていた。ふと視線をずらすと、遠くに小さく煉瓦作りの北側見張台が見える。なんとなしに見ているとなにかが細く空へ向かい立ち上っている。煙だと気付いた途端、見張台の頂から火が噴き出した。
(見張台が燃えている……!)
なぜあんなところで火の手が上がるのか。疑問に思う間にノエリアは部屋を飛び出し廊下を走って、王宮二階北側バルコニーに出た。
状況が分からないままに騒ぎ立てることはできない。目視でなにか確認したかった。
今朝は、雪は降らなかったが空気が冷たく乾燥していた。下を見ると雪がいくらか積もっている。
遠くに森、そのまたずっと向こうに小さく見える燃える見張台。ノエリアがバルコーまで出てくる間に炎が大きくなっていた。あれはなんなのだろう。
(攻撃か、それとも……助けを求める狼煙だったらどうしよう)
王宮のどこかで誰かが起きているとは思うけれど、いまこの状況を気付いているのが自分だけだったら。もしや、ソラゾ軍がこの森に入り火を放ったのだろうか。王宮すぐ近くに来ていたら。
そのうちのどれだとしても大変だ。自分の想像でしかないことだが足下から震えがくる。寒さのせいではない。
(誰かに知らせなきゃ。呼びに行かないと)
後ずさった時だった。
遠くに光が揺れてそれが松明だと気付いた。足下の雪を散らしながら進んでいるのは馬、こちらに向かってくる松明を持った騎馬だ。足を取られず走っているということは雪が堅いのかもしれない。
見張台に火を放ったのがあれなのだろうか。鳥肌が立って足がすくむ。
目を凝らすと騎馬が三つになった。こちらに真っ直ぐ走っている。雪を含む湿ったドドッという蹄の音が聞こえてくる。あとに続き森から次々に騎馬が走り出てくる。
大きな騎馬隊群の蹄の音はまるで地鳴りだ。
松明を持つ者を背に乗せた馬は葦毛だ。先の三騎はくるりと方向転換をし、それぞれが松明を持ち森へと戻っていく。バルコニーから身を乗り出して見ていると、群れの中にドラザーヌの旗を掲げるひとつの騎馬を見つけた。
我が国の騎馬だと分かるとカッと胸が熱くなって、ノエリアは手を振る。あちらに見えているかは分からない。
森から抜け出てきた大勢の騎馬隊は、ドラザーヌとガルデの軍だ。松明を持つ三騎が入った森に向かって雄叫びをあげ拳を突き上げている。
王宮に戻った騎士団の青年が言っていたことを思い出す。
(作戦。これがそうなのかもしれない)
森に火を放つなんて、なにがあるのだろう。白い息を吐き寒さも忘れて見ていると、もはや燃え崩れそうになっている北側見張台を中心にして円形に森から火の手が上がった。
悲鳴を上げそうになり、口を手で覆う。
「まさか、森に火を点けているの?」
そこでふと気付く。もしかして森に入っていた三騎はシエルとリウ、マリウスなのではないだろうか。松明を持ち森に入り、そして火を点けているのだ。なんのために。
燃えている森にいるなんて危険極まりない。