隻眼王の愛のすべて  < コウ伝 >
とはいえ自分勝手に進めては反感を買い余計に事は進まない。結婚よりも国務、というわけではなかったのだろうが。
ゆっくりでいいからひとつずつ丁寧に確実に物事が進めばいいなとノエリアは思った。

「そうだ。ノエリア、結婚式が終わったら完成する頃だろうからヒルヴェラの薬草栽培の施設を行こう。ミラコフィオの施設も見たいし」

「そうですね。紫の花を付けるのは夏ですが、根や葉は枯れず越冬する薬草です」

「管理状況を見たいね。屋敷に泊まってゆっくりしたいしな」

「シエル様、お仕事はお忘れなく……」

「分かってるよ」

きっとリウも同行するに違いないので、カーラも一緒に連れて行こうとノエリアは思って小さく笑う。

「シエル様、ミラコフィオを少しここへ持ち帰ってもいいでしょうか」

「いいんじゃないか。どうするの」

「ここでも育てられるか研究してみたいです。ヒルヴェラにミラコフィオ群生地があったのは様々な環境条件があったからでしょうけれど、条件さえ揃えられるならどこでも栽培できると思うんです」

万能薬ミラコフィオを事業として成功させられれば、ほかの薬草も研究開発され底上げできる。雇用も増えて領土は潤い、よって国も潤い名産になればいい。

「なるほど。栽培や加工法はヒルヴェラ家のものだが……そうだな、認可契約などをして広げられるかもしれない」

シエルが言うとリウも「そうなりますと」と話を続けていた。聞いていると、カーラが手を止めてノエリアを見た。

「あの、わたしノエリア様のお手伝いをしたいです」

「もちろんよ、カーラ。ありがとう」

そんな風に興味を持ってくれると思わなかったので、とても嬉しい。わくわくして仕方がなかった。

「カーラ殿は参考資料を探すのがとてもうまいですものね」

リウの言うことは、ノエリア自信がよく分かる。ここへ来てカーラの能力に感心したのだ。

「そ、そんなことはないのですけれど。分からないものを読んで頭を悩ませるのって時間の無駄だと思うんです。勉強も嫌いになっちゃうし。分かると楽しくなると思うんですよね、読書も勉強も」

自身は歴史の勉強で彼女の力を借りたのだったが、ふとノエリアは考えを巡らせた。

(簡単に、そして楽しく。なるほど……)

ということは。

「ねぇ、シエル様。カーラを慈善活動での孤児院訪問へ同行させたらどうかしら」

そのアイデアを聞いて、ちょっと考えたシエルは表情を明るくする。

「いい考えだ」

ドラザーヌでは貴族だけでなくシエル自ら慈善活動に積極的だった。正式に王妃となればノエリアだって率先して活動したいと思っている。

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