隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
「楽しく子供たちに教えることができそう。ね、リウ様もそう思いませんか?」
「たしかに。簡単さを整えるのはカーラ殿の才能ですね。じゃあ今度、王都の王立図書館に行きましょう」
「え、あっ」
「孤児院での教材に、なにか考えましょう。一緒に」
一緒にと言われたカーラが真っ赤な顔をしてあたふたしている。それに構わずリウは先日はこうだった、その前はなにをしたとカーラに話しかけている。
「ひとりだと探しきれないし、わたしはどうも子供に人気が無くて」
ノエリアが笑いを堪えていると「どうなさったのです?」と首を傾げるリウ。
「リウ、お前なにも気付かないのか?」
「なにがですか?」
シエルは呆れたように額を手で押さえる。真っ赤な顔でうつむくカーラが気の毒でノエリアは背中をさすってやった。
「だめだ、これは……」
「前途多難ね、カーラ」
国王陛下の万能な側近は、自分のことには激しく鈍感なのだった。
慈善活動についてはリウとカーラにまた相談の場を設けることにし、温室には再び穏やかな空気が流れる。
「そういえば、マリウス様からお手紙が来て書いてあったのですが、ガルデ王国には香りの濃い真っ赤な薔薇があるんですって」
「やはり生花産業の国だな。見てみたいものだ」
シエルは温室に運ぶことを考えたのかもしれない。まわりを見渡した。
王宮庭園には薔薇園もあるのだが、ドラザーヌとガルデでは気候が違うから、ガルデの植物であれば温室栽培が適しているだろう。
「そういった花があるからこそ香水も有名ですからね。新聞で読みましたがいま大流行している香水があるそうですよ」
カーラが赤みの治まった顔をノエリアに向けてくる。
「あ、新聞で読んだわ。なにやら、昔結ばれなかった男女の悲恋物語を現代の公爵夫妻が蘇らせてふたりを一緒にしたとか。ふたつセットの香水なのですって」
「ロマンチックですねぇ」
「昔は結ばれなかったのだろう? 辛いじゃないか。俺なら耐えられない」
「そんな、身も蓋もないことをおっしゃらないで。シエル様」
シエルは、結婚式が未だだということを言いたいのだ。
話がまた振り出しに戻っている。
「とりあえず、予定がゆっくり進んでしまいましたが、結婚式は一ヶ月後に決定したのですから。ご機嫌直してくださいね。日々、お祝いのお手紙が届きます」
ノエリアがそう言ってもシエルはジャムケーキにフォークを入れながら眉間にしわを寄せている。
「予定がゆっくり進んだせいで、ノエリアが勘違いをしたり、俺がマリウスに対して変な気持ちを持ったり、余計なことになったんじゃないか」
「シエル様へのマリウス様の嫉妬は相当なものでしたからねぇ」
楽しそうにリウは言うが、シエルはまた不機嫌になる。
「ノエリア様もひとのこと言えませんよねぇ」
「カーラぁ……」
今度はノエリアが真っ赤になる番だった。シエルに見られたくなくて顔を背けた。
「婚約の手続きだけしてそのままノエリアを王宮に囲うような形だったじゃないか。俺はもう嫌だ。明日にでも結婚式をしたい。リウ、なんとかしてくれ」
「明日は無理です。ですから一ヶ月後に……」
「嫌だ。我慢の限界だ」
「……シエル様、なんか性格変わられました?」
シエルはリウを困らせたことが楽しかったのか、ノエリアを笑顔で振り向き手を取って口づけを落とした。
「たしかに。簡単さを整えるのはカーラ殿の才能ですね。じゃあ今度、王都の王立図書館に行きましょう」
「え、あっ」
「孤児院での教材に、なにか考えましょう。一緒に」
一緒にと言われたカーラが真っ赤な顔をしてあたふたしている。それに構わずリウは先日はこうだった、その前はなにをしたとカーラに話しかけている。
「ひとりだと探しきれないし、わたしはどうも子供に人気が無くて」
ノエリアが笑いを堪えていると「どうなさったのです?」と首を傾げるリウ。
「リウ、お前なにも気付かないのか?」
「なにがですか?」
シエルは呆れたように額を手で押さえる。真っ赤な顔でうつむくカーラが気の毒でノエリアは背中をさすってやった。
「だめだ、これは……」
「前途多難ね、カーラ」
国王陛下の万能な側近は、自分のことには激しく鈍感なのだった。
慈善活動についてはリウとカーラにまた相談の場を設けることにし、温室には再び穏やかな空気が流れる。
「そういえば、マリウス様からお手紙が来て書いてあったのですが、ガルデ王国には香りの濃い真っ赤な薔薇があるんですって」
「やはり生花産業の国だな。見てみたいものだ」
シエルは温室に運ぶことを考えたのかもしれない。まわりを見渡した。
王宮庭園には薔薇園もあるのだが、ドラザーヌとガルデでは気候が違うから、ガルデの植物であれば温室栽培が適しているだろう。
「そういった花があるからこそ香水も有名ですからね。新聞で読みましたがいま大流行している香水があるそうですよ」
カーラが赤みの治まった顔をノエリアに向けてくる。
「あ、新聞で読んだわ。なにやら、昔結ばれなかった男女の悲恋物語を現代の公爵夫妻が蘇らせてふたりを一緒にしたとか。ふたつセットの香水なのですって」
「ロマンチックですねぇ」
「昔は結ばれなかったのだろう? 辛いじゃないか。俺なら耐えられない」
「そんな、身も蓋もないことをおっしゃらないで。シエル様」
シエルは、結婚式が未だだということを言いたいのだ。
話がまた振り出しに戻っている。
「とりあえず、予定がゆっくり進んでしまいましたが、結婚式は一ヶ月後に決定したのですから。ご機嫌直してくださいね。日々、お祝いのお手紙が届きます」
ノエリアがそう言ってもシエルはジャムケーキにフォークを入れながら眉間にしわを寄せている。
「予定がゆっくり進んだせいで、ノエリアが勘違いをしたり、俺がマリウスに対して変な気持ちを持ったり、余計なことになったんじゃないか」
「シエル様へのマリウス様の嫉妬は相当なものでしたからねぇ」
楽しそうにリウは言うが、シエルはまた不機嫌になる。
「ノエリア様もひとのこと言えませんよねぇ」
「カーラぁ……」
今度はノエリアが真っ赤になる番だった。シエルに見られたくなくて顔を背けた。
「婚約の手続きだけしてそのままノエリアを王宮に囲うような形だったじゃないか。俺はもう嫌だ。明日にでも結婚式をしたい。リウ、なんとかしてくれ」
「明日は無理です。ですから一ヶ月後に……」
「嫌だ。我慢の限界だ」
「……シエル様、なんか性格変わられました?」
シエルはリウを困らせたことが楽しかったのか、ノエリアを笑顔で振り向き手を取って口づけを落とした。