隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
その日、王宮には朝から有力貴族が大勢集まって和やかな雰囲気が広がっていた。
今朝はよく晴れて澄み渡る青空は高く空気は澄んでいた。まだ冬の季節ではあるのだが、惜しみなく降り注ぐ日差しのおかげで温かく感じる。
急がれたシエルとノエリアの結婚。ノエリアのドレスもお針子総出で仕上げられた。
純白の上質な生地に金糸の刺繍、胸元から首、腕を手の込んだレースで包み、長いトレーンもレースが惜しみなく使用された。ノエリアの体に合わせ細身でシンプルながら存在感たっぷりなドレス。王家の紋章が編まれたレースの花嫁のベールはノエリアの金髪にとてもよく似合う。
「美しいですね、ノエリア様」
カーラがベールの位置を整えて、静かに言葉をかけてくれる。
「カーラ、ありがとう」
準備期間は本当にカーラとサラに迷惑をかけ世話になった。これからも仲良く王宮で生活していければいいとノエリアは思う。
ふたりは引き続き王妃付き侍女となることが決まっている。
ノエリアはカーラに手招きし、耳打ちをする。
「リウ様とはその後どうなの?」
「な、なにも!」
「リウ様の鈍感さは群を抜いているわ。はっきりきっぱり告白しないと誰かに取られちゃうわよ」
取られるとなるとカーラは嫌だろう。せっかくリウのそばにいたくて王宮に上がったというのに。持ち前の押しの強さと快活さは、リウの前ではなりを潜めるのだろうか。
「結婚式が終わったら、次はそちらの作戦会議をしましょう」
慌てるカーラと笑うノエリアを見てサラが不思議そうにしている。サラも一緒に考えてくれるといいなと思うし、そしてサラにだって思いを寄せるひとがいるのではないかとノエリアは考えを巡らせた。
「ノエリア様、口紅を乗せますのでこちらを向いてくださいませ」
サラに言われてぼーっとしていたノエリアは我に返る。
(いまはとにかく自分の準備をしないといけないわね)
サラとカーラ、そしてこの結婚式のために数日前から王宮にいるマリエ。皆が心を砕き細かく働き花嫁の仕度を整えていた。
同じくヴィリヨも数日前から王宮に留まっていて、いまは他の貴族たちと別室で歓談中だ。
心から喜ぶ兄の顔を見ることができて、ノエリアも嬉しい。
ヒルヴェラ領の様々な整備と平行し、事業計画も実行に移し始めている。
ミラコフィオを中心とした薬草事業に興味があるから協力したいと申し出る貴族がおり、家柄や財力など信用のおける人間であれば考えたいとヴィリヨは言っていた。
「お爺様の事件を思い出す?」
「いいや。あまり全部を疑ってひとを見ることはしたくないね。俺の代ではお爺様と父の良いところを引き継いでいきたいよ」
転地療養で心身共に強くなったヴィリヨはヒルヴェラ伯爵として前を向き、希望に溢れていた。