隻眼王の愛のすべて < コウ伝 >
手を引かれて窓辺に行けば、景色を遠くまで見渡せた。トレーンを引く衣擦れの音が心地よい。空は晴れ渡り、王宮を囲む常緑樹の緑が映える。北側は燃えてしまったが何年かすればまた木々に埋まるだろう。
辛い戦いの歴史と共に。
「ねぇ、シエル様」
これからも様々な出来事があるだろう。幸せや楽しいことばかりではなく、困難なことも、悲しいことも。いままでもそうだったように。
「平和が一番だと思います。けれど、国を守るということはときに剣を持ち戦う」
「……心配させたな」
「生きてわたしの元に帰ってきて欲しいと思いました。絶対に。あんなに強く思えるのはシエル様だから」
「きみが俺に生きる意味を与えてくれたから」
ノエリアは鼻の奥がツンとする。
遠くで歓声が聞こえる。祝福の声が晴れ渡る空に響く。
「ノエリア、愛しているよ」
「いつでも、どんな運命が襲っても、わたしはシエル様のおそばにいます」
ノエリアを見つめる緑の瞳は左右色が違って、とても美しい。
「見えない半分を、わたしも一緒に生きます」
「言っただろう。ノエリアがいれば、俺の世界は何倍にもなるって」
なにかのきっかけで、様々な節目で、心に改めて思い知るだろう。生きる意味と心に溢れる愛情を。
「季節が、人や景色が変わるでしょう。シエル様に出会ってわたしも変わりました。でもあなたを愛する思いだけは変わらないでしょう」
朧だったノエリアの未来、そしてシエルと出会って知った恋心と愛情。
切り開いた未来はふたりで歩むのだ。
「抱いた愛は変わらない」
シエルはノエリアの腰を抱き引き寄せた。
「俺の両手いっぱいの、ノエリアへの愛は変わらないんだ」
光が燦々と降り注ぎ冬の花で彩られたバルコニーが見える。
愛するひとに手を引かれ、ノエリアはまた新たな一歩を踏み出した。
太陽の光、花弁が、人々の笑顔が。たくさんの愛が、降り注ぐ。
生きて行くのだ。愛のすべてを、この胸に抱いて。
了