隻眼王の愛のすべて  < コウ伝 >
それから数日後、カーラが王宮へあがる正式な知らせがノエリアに届く。

到着は昼、ノエリアは朝からなんとなく落ち着かない気持ちで過ごしていた。気にならないと思っていたけれど、さすがに少しだけ心がザワザワしたのだ。

(わたしが動揺していては、カーラ様にも伝わってしまう)

努めて自然にしていなければいけない。

「ノエリア様、リウ様が迎えにいらしています」

「いま行きます」

着替えを済ませたノエリアは部屋から出るとリウが気付いて笑顔を向けてくる。

「ごきげんよう。もう到着されたの?」

「ええ、部屋でお待ちです。シエル様は少し遅れてご案内します。申し訳ありませんが、ちょっとだけおふたりで」

到着したあと、シエルと共に顔を合わせる時間を設けることが決まっているというので、リウと一緒に部屋へ移動する。廊下は静かで、自分の心音を感じる。

「……少し、緊張しているの」

「仕方ありませんね。シエル様もなんだか朝からソワソワしていましたしね」

リウは何食わぬ冷静な面持ちで話していてさすが有能な側近だ。国王がソワソワしているというのに。

(リウ様はなにが起きたら焦るのかしら)

晩餐会から逃げだし帰宅するノエリアを追おうと馬を駆ったシエルを鬼の形相で連れ戻した話を思い出した。リウは常に主であるシエルに関係することしか考えていないのかもしれない。だからこそ絶大なる信頼があり、ノエリアも頼りっぱなしなのだが。

「シエル様も職務に忙しいですしカーラ殿を用意した部屋へ案内しなければいけませんので、お目通りもすぐ終わりますよ」

不安がるノエリアを気遣ってくれ、にっこり微笑むリウだった。

カーラが待つという部屋にリウが先に入っていく。ノエリアも続くと、黄色のドレスで綺麗に結って上品にまとめた茶色の髪、姿勢良く立つ後ろ姿が窓際にあった。

「お待たせしてすみません」

思わず謝りながらそっと近寄る。すると彼女はゆっくし振り向いた。

「お久しぶりね。ごきげんよう」

久しぶりに見たカーラの姿にノエリアは目を見張る。

「カ、カーラ……様」

「あら、どうなさったの。目をそんなにひんむいて。目玉が落ちそうよ」

ノエリアの記憶にあるカーラは痩せていて目つきが鋭く、カマキリのような女性だった。じっとりとノエリアを睨んでいた目も覚えている。しかしいま目の前にいるのは、ふっくらした頬は艶があり健康そうな肌とキラキラした青い瞳、黄色いドレスがとてもよく似合い、紅を乗せた形のよい唇を持つ女性だった。

「なんだか……様子が変わりましたね、カーラ様」

「少し太ったから。ノエリア様もお元気そうね」

扇子を顔の前に開いてにっと笑うカーラ。高飛車な雰囲気はそのままで、これではどっちが王妃になるのか分からない。

(やはり引いてしまうわ。雰囲気と仕草は変わってないのね。でも本当にお綺麗になられた)

ノエリアはきちんと挨拶をせねばと居住まいを正して笑顔を向ける。

「カーラ様。長旅お疲れさまでした。もうすぐ陛下もお見えになります。その後、お部屋に案内するとのことです」
「ありがとうございます」

ツンとした表情は以前と変わらないが、やはり以前より美しいと思う。
とりあえずは雰囲気よくノエリアとカーラが会話をしているところを見ていたリウが、メイドにお茶を用意するよう伝えている。シエルの姿はまだ見えない。

「わたしは陛下のところへ。隣室にひとがいますのでなにかあればお声がけください」

「ありがとうございます。リウ様」

部屋から出ていくリウを見送って、ノエリアは「お座りになっては」とカーラをソファに促す。
丸いテーブルを囲むように設置されたソファに腰を下ろすふたり。お茶と焼き菓子、チョコやクリームなども用意されている。

「ああ、もう」

カーラがフンッと息を吐いたので、顔を見ると少し赤い。

「どうしましたか? 具合が悪いとか」

「いいえ。あの、ちょっと太ったからドレスがきつくて……お直しできていないの」

お腹に手を当ててまた鼻から息を吐いた。

「あ、ふふ」

「なにを笑っているの。馬鹿にしているのね」

カーラが唇を尖らせた。
                                                    
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