種も仕掛けも
「お嬢さん、よかったら見ていきませんか?」
不意にかけられた声に顔を上げると、巨大なウサギがいた。ーーいや、正確に言えば、ちゃんと二本足で立っている背の高いウサギの着ぐるみだった。何故だか黒いベストと真っ赤な蝶ネクタイを身に付けている。
真顔のようでいてうっすら笑みを浮かべたままのウサギは、身振り手振りで中央のステージを指差す。そこにはポップな書体で書かれた看板があった。
〝ウサギさんマジックショー〟
「マジックショー……?」
呟いた私の声を拾い、コクコクと頷く着ぐるみウサギ。急に喋らなくなったのは、小さい子どもたちが走り寄って来たからだろう。
「わあ、ウサギさん!」
「ママー、見たーい!」
そんな風に群がる子どもたちの頭を撫でながら、ウサギさんは私にそっと座席を指し示した。どうやら席に着け、ということらしい。
どうせこの後は何の用事もないし、待たせている相手もいない。私は若干の胡散臭さを感じつつも、せっかくのお誘いに乗ってみることにした。
きっと子ども向けのショーなのだろう。親子連れが目立つ。場違いではないのだろうかと思ったが、皆ステージに注目していて私のことなど視界にも入っていないようだった。そのことに安堵しつつ、司会者の声に耳を傾けた。