契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
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石畳の大通りをたくさんの人や馬車が行き過ぎていく。
リーシャはそれを横目にしながら驚くほど大きく立派な建物の前で、ゴクリと唾を飲んだ。

身体の前で封筒を持つ両手の指先が震える。

(あの方は、来てくれるかしら……)

来なければ別の人を探すだけ。
あの人ほどの都合の良い条件の人がそう見つかるかはわからないけれど。

それでも怖気の走る最悪で最低な未来を回避するにはリーシャは諦めるわけにはいかないのだ。

リーシャはふるんと一度大きく頭を振ると、建物の入口へと足を進めた。


「……すごい」

国一番の大図書館というだけあって建物の中はずっと奥の方までびっしりとリーシャの背よりも高い本棚が等間隔に並んでいた。
町の図書館には足繁く通っていたリーシャだったが、こんなにたくさんの本が並んでいる様は見たことがない。

キョロキョロとしながら受付で入館の手続きをし、本棚の隙間を縫って奥へと向かって行く。

(確か……奥の階段を上がって右側)

飴色の螺旋階段を上がって、廊下を右手に曲がる。
そちらには選んだ本をゆっくりと読むための読書スペースが設けられているらしい。

昼前という時間帯だからか、来館者はほとんどいないようだ。
入口からここまでリーシャは受付の司書と本棚の隙間に来館者を二人見ただけだった。

少し歩くと視界が開け、いくつもの長いテーブルと椅子が置かれた明るいフロアがあった。

フロアには年若い仕立ての良いシャツにベストを羽織った青年が一人と、傍らに杖を立て掛けたスーツ姿のお爺さんが一人少し離れたテーブルに腰を落ち着けている。

青年の方がちらりと入ってきたリーシャに目を上げて、すぐに興味をなくしたように手元の本に戻した。


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