契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
(どうしたのかしら?あっ、もしかして顔に痕でもついてたりする?)

思い当たるとよりいっそう顔に熱が集まって、なかな顔が上げられない。
けれどいつまでも頭を下げたままというわけにもいかず、そぅっと伺うように視線を上げた。

気のせいか、相手も頬が赤い。
目が合うとさり気なく逸らされてしまった。
笑いを堪えているのかも知れない。

(そ、そんなにおかしなことになってるわけ!?)

こんな大事な時になんて失態をと、リーシャは頭を抱えたくなった。
本音を言うなら逃げ出してしまいたい。
失礼しましたっ!と走り去ってしまえたらどんなにいいか。

そんなわけにはいかないけれど。

それに出口は男性と、その護衛らしい人が少し下がって立っているので塞がれている。
逃げ出すならその間をくぐり抜けることになるのだ。

(ムリ。絶対ムリ)

ただ背を向けて走り去るのとは難易度が違う。
ムリだムリ。


「あ、の……本日はお時間を頂きまして、ありがとうございます」
「ーーああ」
「とりあえず座って落ち着いたらどうですか?」

二人して微妙に固まっていたら、男性の背後から助け船が出された。

「……そうだな」
「はい」

椅子に座り直して、ペコリと助け船を出してくれた護衛を人に軽くお辞儀をする。
そうしたらまた驚いた顔をされて戸惑い、すぐに貴族のご令嬢というものは普通護衛に頭を下げたりしないのだと気づいた。
< 12 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop