契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。


せいぜい数分。
内容はそれなりに濃いけれど、分量はわずか紙三枚。

じっくり精査していてもほんの数分しか経っていないはずだ。
はずなのだけれど、ものすごく、すっごく長く感じた。

リーシャは自分が用意した契約書に目を通す男性ーーディミタス候爵の麗しきご尊顔をちらちらと伺い見る。

(やっぱりすごい美形)

その昔、彼が今よりももっと若かりし頃に彼を巡った女同士の争いが刃傷沙汰にまでなったという。
眉唾ものな話かと思っていたが、案外事実なのかも知れない。

軽く前髪がかかる伏せた目元は涼やかで、すっきりとした鼻梁と薄い唇が完璧な位置に配置されていて、形の良い唇がわずかに開いた様は妙に艶があり色っぽい。

見目良く血筋良く20代の半ばで候爵位まで持つこの人がこれまで頑なに独り身でいたのは社交界でも不思議がられていた。
望めば選り取りみどり。

美しい女性でも婀娜な女性でも可愛らしい女性でもあるいは美しくなくても。

「いかが、でしょうか?」

精一杯の強がりで小首を傾げて笑って見せた。
田舎町で美人だの美少女だの言われていたところで、実のところリーシャくらいの容姿は王都の社交界にならゴロゴロといる。
せいぜい少しばかり派手な髪色が人目を引く程度。
ましてパーティーの時と違って今日のリーシャは申し訳程度の薄い化粧に町娘のようなみつあみに裕福な商人の娘が着るようなワンピース。

(鏡を見て出直せとか身の程知らずとか言われてもおかしくないのよね)

もちろんリーシャだって何も勝算がないわけではないが。
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