契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
というかさすがに何の勝算もなく『契約結婚』なんてものを持ち掛けられはしない。

「ずいぶん、周りから結婚を迫られているようですが」

リーシャの遠回しな台詞に、ピクリとまぶたが動いた。

「候爵様は、結婚……したくないんですよね?」

そう。
アンリ・ディミタス候爵様は結婚相手を選り好みしているうちにここまで来たのでも、身分違いの恋人がいるから結婚しないとかの訳ありでもない。

単に、結婚する気もなければしたくもないのだ。

女嫌いという噂もあるが。
偶然にもある場面に遭遇してしまったリーシャは知っていた。

女嫌いにはたぶん違いないのだが。
ことはそんな単純なものでもなくて……。

(や、単純といえば単純だし、訳ありといえば訳ありなのか……)

「ですが候爵様ともなれば跡継ぎを作るのは絶対的な義務。弟君の子供を跡継ぎに指名するにもそのお子様はまだ5才。7才を過ぎなければ指名も出来ませんから、そうしようと思うなら最低あと二年、候爵様はこのまま独身を貫くか、もしくはーー」

リーシャは意味ありげに言葉を切るとちろりとディミタス候爵の手にある契約書を見やる。

「二年間、白い結婚を貫く上に二年後には円満に離婚してくれるご令嬢と結婚するしかないのではないですか?」
「なるほど」

と、麗しの候爵様は手にしている契約書をひらひらと振った。

「そのご令嬢が自分だと?」

(……ひぃぃぃぃ!)

怖い。
はっきり言って、怖い。

美形の不機嫌顔がこんなにも迫力なものとは。

ゴクリ、と喉を鳴らして。
リーシャはこの時出来うる最上級の作り笑顔で、にっこりと笑った。









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