契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
ようやく解放された時には、ドレスの赤いシミはすでに半分乾きかけの状態だった。
これでは洗っても完全に落ちるのは厳しいだろう。
リーシャはそうため息まじりに思いながらとぼとぼ会場を出てトイレに向かう。

グイッと両手に持ち上げたドレスの裾を洗面台でバシャバシャ水洗いしてしげしげ確認して見れば、やはり薄く赤いシミが残っていた。

さてこれで本妻からの折檻は確実だ。
そんなにワインが好きなのかと頭からワインをかぶせられるかも知れないし、もっとしっかり洗えと庭の池に入らされるかも知れない。

あるいはまた屋敷中の床を磨くことになるか。

別に掃除は嫌いじゃないけれど、屋敷中となればただでさえ一日仕事になるのに、本妻とメイドたちの嫌がらせのおかげで何度も同じ場所をさせられるはめになる。

床がツルピカになるのは気持ちいいけれど、せっかく奇麗になった床をわざと汚されるのは繰り返されるたびに地味に精神的ダメージが蓄積されていってしんどい。

リーシャはガックリとしてその場を離れた。
どうにも水に濡れ、シミも残るドレスで会場に戻る気にはなれず、外へと足を向ける。

庭に出て邸内の煌々とした灯りから逃げるように人目のない低木の垣根の奥へと進んだ。

庭に灯りは乏しく、少し歩くと足下が暗くなる。
リーシャは足下に気をつけながらも時折キョロキョロと辺りを見回して、どこか休める場所を探した。

最初、見回した視界に入ったのは薄闇に白く浮かび上がる水。
サヤサヤと流れ落ちる水の音が遅れて耳に届いた。
囁かな音は、それと気づくより以前から聞こえてはいたのだろう。

ただ、リーシャが意識していなかっただけで。
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