契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
そこは小さな噴水を囲む広場だった。

木立の隙間に隠されて作られたまるで秘密の隠れ場のようにリーシャには見えた。

そう見えたのはその場所の雰囲気もあるのだけれど。きっと、それだけではなくて。

噴水の傍らに佇み見つめ合う二人の人物がそう思わせたのだと思う。

(……なんて奇麗な人)

噴水を囲んで設置された外灯の灯りがちょうど子柄な人物の顔を白く照らし、その横顔をリーシャの目に写し出していた。

少年というのが相応しい年頃だろう。
15、6。
あるいはもっと若くも見えた。

幼くもあるが、同時にぼうっと見惚れずにはいられない奇妙な色気と言おうか艶のある横顔だった。
白い肌にはきっと間近に見てもシミ一つないに違いない。
少し長めの髪がふっくらとした頬に影を落とす。
瞳の色は光の加減で透き通る水色のようにも青みがかった銀色のようにも見える。
形の良い唇は何も塗っていないだろうにほんのりとした薄桃色をしていた。

(男、よね?)

奇麗ではあるけれど、秀麗な顔立ちはちゃんと少年のものだ。
衣服も従者のお仕着せらしい上下に深い藍色のタイ。

(それにもう一人も……)

少年と向かい合う相手もまた男性だった。
こちらは外灯の灯りが逆光ぎみになっており、はっきりとした顔立ちまではわからない。
けれどすっきりとした立ち姿や服装からして、高貴な家柄の人間なのだと窺える。

夜会に招待された貴族とその従者なのだろうか。

リーシャはドキドキと激しく脈打つ胸を手で押さえてひそやかにその二人を見守る。
頬には熱がこもって思わずゴクリと飲み込んだ唾さえ熱く喉を通り過ぎる気がした。

(……は、始めて見たわ!)

そういった関係はあるのだと、知識ばかりは知っていたし、友人から薄い本を借りておっかなびっくり読んでみたこともある。

だけれども生は始めてだ。

(思ったほど嫌悪感はないものね)

その光景を美しいものと感じるほど、少年の見た目が素晴らしいというのもあるのだろう。
ぽやっと見惚れていたリーシャはだが次の瞬間、息を飲むことになった。
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