契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
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(やった、やったわ。やってやったわ!)
花壇と花壇を隙間を縫う石畳の小路をリーシャ・カルテットはどこかふわふわとした足取りで先に進んだ。
一応はリーシャの父ということになっているカルテット家の本邸はリーシャの進む方向とは少し外れている。
父ということになっているというが、きちんと血は繋がってはいるらしい。
ただリーシャはあの男を父とは認めていないし、向こうだって似たようなものだと思う。
でなければ本妻に睨まれたからといって腹の大きなリーシャの母を追い出した挙げ句それから16年養育費も何もなしに放置したりしないはずだ。
16才になったリーシャを突然強引に娘として引き取ったのも領内で美しいと評判の少女が自身が昔ポイッとしたメイドが生んだ娘だとわかったから。
見目の良い娘なら利用価値があると踏んだからに過ぎない。
リーシャはしばらく進むと小路を逸れて低い低木にひっそりと隠された木戸を開く。
木戸の奥は本邸の瀟洒な薔薇の庭と違って申し訳程度に雑草が処理されただけの庭があった。
石畳はところどころ剥がれ、奥に見える小さな噴水には水がなく苔と黴がこびりついている。
そのさらに奥に佇むこじんまりとした2階建ての洋館の手前には小さな花壇が二つあったが、そのどちらにも植えられているのは可憐な花ではなくどう見ても野菜だった。
洋館から見て左の花壇には赤赤としたトマトの苗が。右の花壇にはこんもりとした盛土が3つ並び、そこから緑の葉が顔を出している。