契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
じぃん、と胸が熱くなった。
(素敵。素敵!素敵だわっ!)
禁断の恋。
そして少年の格好からして、身分違いの恋なのだ。
(あぁきっと候爵は恋人以外と結婚なんてできないのよ)
世の中、男性をこっそり愛人に持つ貴族というのは実はそれなりにいるらしい。
むしろ子供が出来る心配がない分、女性の愛人を持たれるよりは良いと認める夫人も多いのだとか。
だがそれもあくまでも子供を作った後。
しかも複数人作るのが好ましいとされる。
つまりは夫婦としての責任を果たし、跡継ぎとできればスペアとなる次男、欲を言えば政略に使える娘までできればなお良しな子供を作った後ならお互いある程度自由に遊ぶも良しだが、子供もない状態で遊ぶのは許されない。
まして少年はどうやら従者のようである。
貴族の家において、使用人に対する裁量権はその家の女主人ーーつまり妻にある。
使用人である以上、少年はいつ妻となった女性にクビを切られて追い出されてもおかしくない。
それこそ候爵の外出中に手切れ金もなくぽいされても文句さえ言えない。
「あら、使用人の雇用は女主人。つまりワタクシに権限がありますでしょう?何か問題がありまして?ホホホッ」
で、終わり。
貴族間において家に嫁ぐということはその家の女主人になるということ。
女主人となった妻はこと家の内に関しては家主である夫よりも強い権限があるものなのだ。
(なんだかお気の毒ね)
愛し合っているのに引き裂かれる二人。
まるで歌劇のラブロマンスではないか。
「もとより二人の仲を認めていて、自身が愛されることも望まない。あまり実家が口出しもしない。そんなお相手でもいれば良いのでしょうけど……」
さすがにそうそうそんな都合のいい令嬢がいないことはにわか令嬢であるリーシャにもわかる。
ディミタス候爵もすでに20代も半ば。
跡継ぎのこともあるし周囲からは相当な圧力がかかっているはず。
(あんなに絵になる二人なのにもったいない)
そう思うと、他人ごとながら胸がチクンと痛んだ。
好きな人とけして結婚できない候爵様。
好きではない、親よりも年のいった老人の後妻にされようとしている自分。
はたしてどちらの方がまだマシなものだろうか。