契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
(どっちもどっちだけど、私には好きな人がいるわけではないし、まだ幸せな方かしら?)

候爵様は好きな人がいるのに別の女性を妻に迎えなければならないのだから。

けれど一度くらいはちゃんと恋をしたかったなあ、とも思ってしまう。
父親がリーシャの嫁ぎ先に目しているフェルドリン伯爵はすでに老齢で、しかも老後の世話をしてあげたいと思えるような好々爺でもない。

どちらかというと目つきの気持ち悪いエロジジイ。

とてもではないが恋をする対象にはなりえない。

(というか現時点でもう嫌いだし)

初対面から全身を舐めるように見られて、ベタベタと腰や腕に触れられた時には怖気が走ったものだった。

イヤなことを思い出してしまったとリーシャはゲッソリして隠れていた木の幹に凭れ、はぁ、と息を吐く。

せっかく素敵場面に出くわして高揚した気分が台無しである。

だがふと、ずんと落ちかけたリーシャの脳裏につい先ほど自分が呟いた台詞が過ぎった。

「もとより二人の仲を認めていて、自身が愛されることも望まない。あまり実家が口出しもしない。そんなお相手でもいれば良いのでしょうけど……」

この時、リーシャはピンと閃いたのだ。

「私なら、なれる!」

なんてことだ!!とリーシャはこっそり興奮した。

二人の仲を認める?
当然だ。認めるどころか喜んで応援しよう。
ただちょっぴり隠れてニマニマ観察させてはもらいたい。
愛されることを望まない?
イエス!
どのみちこのままだとエロジジイとの愛のない(一方的な愛というか性欲はあるのかも知れないけど)結婚が待っている。
気持ち悪いエロジジイとの愛のない結婚か、イケメン(美人の恋人付き)との愛のない結婚か。
果たしてどちらを取るかと問われれば即決で後者である。

実家が口出ししない?
天下の候爵家に格下の伯爵家が何を言えるだろうか。

リーシャはフヒヒ、と少々令嬢らしからぬ声をひっそりと発してクルリと踵を返した。
そうとなればさっさと行動に移すのみ。
情報収集と作戦を立てなくては。

リーシャはそう一つ頷き、二人に見つからぬよう木陰に身を寄せながらコソコソとその場を離れた。


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