契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
沈黙が長い。

いや実際にはせいぜい1、2分といったところだろうけれど。

リーシャは引きつりそうになる顔の筋肉を必死の思いで笑顔に保った。

(ああ、やっぱり鼻で嘲笑われるのかしら?それともふざけるなとでも叱責されるのかしら?)

たかが伯爵令嬢ごときが。
しかもつい最近まで市井で育った平民同然の庶子が候爵相手に自身を結婚相手に売り込むだなんて普通に考えたら身の程知らずも良いところだ。

もちろんリーシャとて自分なりに情報を集めこれならなんとかなると思って契約を持ち掛けた。
父親やフェルドリン伯爵に連れ出されたパーティーや夜会で噂話を拾い集めたくらいのものだが。

父親もフェルドリン伯爵も一通りリーシャを連れ回したら後はリーシャに大人しくしているように告げてそれぞれ挨拶回りや友人たちのもとに行く。
リーシャはというとそこで壁の花になりつつご婦人や令嬢方の噂話をさり気なく拾い集め、計画を練った。

たかが女性たちの噂話と侮るなかれ。
庶民にとっておば様方の世間話が案外重要な情報源になったりするように、貴族の女性たちの噂話というのも十分な情報になる。
特に調査対象が今回のように女性にとって目立つ存在であればなおさら。

そしてここ最近非常に耳にするディミタス候爵の噂が一つある。

「いよいよ候爵の独身貴族も年貢の納め時らしい」

というものだ。

噂のお相手はアンナ・カレーリナ候爵令嬢。
名門カレーリナ候爵家の次女で現在リーシャの一つ上の18才。

金髪縦ロールにサファイアブルーの瞳。タレ目がちな目元をした派手だけれどそこそこ美しい女性。
でもってなんの因果か単なる偶然か、とある伯爵家のパーティーでリーシャのドレスをワインで赤く染めてくれた女性。
つまり性格は悪い。
性格のよろしい人間は他人のドレスにワインをぶっかけはしないだろう。

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