契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
リーシャはカツカツと短い階段を上ると白い木製の扉を開いた。

「ただいま」

と口に出したもののただのクセのようなもので、どこからも返事はない。
この家に住むのはリーシャだけで、家族もメイドも侍女も料理人もいない。
2階に浴室と寝室と二間続きの洋室、一階にトイレと小さなキッチンに食堂があるだけの小さな家は、リーシャ一人で住む分には広すぎるほどだが、使用人を置くほどでもない。

この家に来てすぐの頃は何度かメイドを寄越されたこともあったが、仕事もろくにせず愚痴と嫌味と嫌がらせしか口にしない体たらくに追い出してしまった。
それからというもの食事すら用意されなくなったが、それで困り果てるほどリーシャも柔ではなかった。


リーシャはそのまま二階へと上がると、洋室のドアを開ける。
部屋の家は色褪せた板張りの床に古びたデスクと背の低い本棚、一人掛けのカウチソファーが置かれただけ。棚に並んだ本も、カウチソファーの生地もすべてが使い古されてボロボロという有り様。

しがない庶民であった頃の部屋よりもはっきり言って家具の質は落ちている。
しかもそれなりに広さだけはある分天井から吊り下がったオイルランプの灯りだけだと明け方や日暮れは暗い。おかげで夜更かしをしなくなった。

掃除はしっかりしているので、埃がたまっていないことだけは救いだ。

リーシャはドサリとカウチソファーに身を投げ出すと、足をブラブラさせてヒールの高い靴を床に落とした。
明日の朝になれば本邸からメイドがドレスも靴もアクセサリーも引き取りにくる。
ドレスに皺が出来ていればまた口汚く罵られるのだろうが、気が抜けたのかどうにも動く気にならなかった。
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