契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
リーシャの母はメイドだった。

カルテット伯爵家に雇われた下働きのメイド。

屋敷の主人が戯れに若いメイドに手をつけることなぞどこにでもあるありふれた話だ。
運が良ければ少し多めにお手当がもらえて、飽きれば適当な時期に紹介状をもらって他の家に移るということもあるらしい。
母は、運が悪かった。 
そして相手も悪かった。

もともと酒に酔った父親が母に無理に手をだした関係なうえに一度の関係で妊娠をした。
責任をとってある程度の生活を保証することも養育費を出すこともしない男で、妻は悋気の激しい女でもあった。

結果、妊娠発覚と同時に夫の不貞を知った妻は浮気相手のメイドを自主的に辞めさせることも認めず実家に下がることも認めず、散々イビリ倒した挙げ句に腹ボテになったところでクビにしてほとんど着の身着のままの状態で屋敷を追い出した。

親しくしていた使用人仲間たちの機転でこっそり買い出し用の馬車に拾ってもらって実家まで送ってもらえていなければ、リーシャは生まれてもいなかったかも知れない。

伯爵家から母の実家がある町までは馬車でも二日以上かかる。

女一人で、まして腹ボテの妊婦が路銀もなく徒歩で
何事もなく辿り着けるほど伯爵領は治安が良くない。むしろ領主が屑だからか、すこぶる悪い。

それでも領の外れにある小さな町は比較的平穏で訳ありなリーシャたち親子も優しく迎え入れてくれた。
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