契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
アンリが頭を悩ませている原因。
それは一人の年若い令嬢だった。

先日とある伯爵家のガーデンパーティーへ出席した際、伯爵家自慢とやらの薔薇の庭園で声を掛けてきた紅薔薇のような少女。

リーシャ・カルテット。

鮮やかなルビーレッドの波打つ髪にくっきりとした翡翠の瞳。ぽってりとした唇に柔らかそうな白い肌の美しい少女。
パーティーの主催者であるカルテット伯爵の娘で、病弱ゆえについ最近まで領地で療養していたという触れ込みだが、それを鵜呑みにする貴族はどこにもいない。

カルテット伯爵と同じ翡翠の瞳を持つことから、伯爵とは血の繋がりはあるのだろう。
おそらく伯爵が本妻以外と作った庶子。
療養というのは建前で、最近になって母親の元から引き取ったのに違いなかった。

(それならあの人選にも納得がいく)

あれだけ美しい少女なら病弱という触れ込みがあっても嫁ぎ先は十分選べるはずだ。
そもそもパーティーで見たリーシャ・カルテットは病弱とは程遠い印象だった。

アンリに契約結婚を持ち掛けてきた時も興奮気味に頬を赤く染め、真っ直ぐに見上げてくる姿は儚さよりもむしろ強さをアンリに感じさせた。

真っ直ぐにこちらを見上げる翡翠の瞳を思い出し、アンリの胸がドクリと鳴る。

もうすぐ27になるアンリにとってリーシャ・カルテットはまだ16才になったばかりの小娘だ。
普段なら女として意識する対象ではない。
けれどあの自分をどこまでも真っ直ぐに見つめる翡翠の瞳には、どこか胸がざわつくような気がした。


麗しき少女リーシャ・カルテット。
なのにあの少女に父親が寄り添わせていたのは自身よりもあきらかに年のいった老齢に差し掛かろうという男だった。
< 8 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop