契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
ロウズ・フェルドリン伯爵。

年は確か50を過ぎていたはず。
嫡男はアンリと変わらない年で孫もいたはずだ。

鉱山伯とも呼ばれている。
十数年前領地に金鉱山が見つかった。
それからというもの急速に羽振りを良くし、金をばら撒くことでそれなりの権力を手にしている。

女好きで、特に若い少女を好んでいると噂される人物だが……。

「自分の孫ほどの少女を後妻にとは、悪趣味にも程があるな」

嫌悪によりいっそう眉間に皺が寄る。


普通の親ならば実の娘にそんな男をあてがいはすまい。まして正妻の産んだ娘なら。

「あそこは奥方が気が強いことで有名だ。ずいぶん尻に敷かれてるともな。愛人が産んだ娘に対する嫌がらせもあるんじゃないか?」
「ますます悪趣味だ」

だがそれならリーシャ・カルテットの気持ちもわかる。

誰が情の欠片も感じられない親のために祖父ほどの年齢のエロジジイに嫁ぎたいと思うものか。

なんとしても回避したいと思うのは当然のこと。

ならばこそ、リーシャ・カルテットのいう『契約結婚』の信用性も上がるというもので。


「きっとわたくしたち双方にメリットがあると思いますの」

リーシャ・カルテットの赤い唇が告げた言葉が頭を巡る。

双方にメリット。
確かにその通りだ。

リーシャ・カルテットの言う『契約結婚』はアンリの側にもメリットがある。

カップの底に残った紅茶を飲み干してアンリは静かに椅子から立ち上がった。

「おっ、行くのか?」

笑い含みの声に、渋面のまま応えた。

「とりあえずもう一度話を聞くだけだ」
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