散りゆく花泥棒と夜明けを待つ花嫁
「……なんかちーちゃん、無理して嫁ぐみたい。なんか、あったん? あれか、政略結婚? 借金の形に? 脅されちょる?」
「くくく。やだなー。恋愛結婚ですよ。多分」
 心配しすぎですってから元気で微笑むと、お爺ちゃんは少しだけ寂しそうだった。
「爺ちゃん、風呂掃除もしといたで」
「お前、人質ほったらかして何しとんのか。ここ座っとけ」
「爺ちゃんが部屋を片づけろって言ったろ」
「うるさい、爺ちゃんは三歩進んだら過去は振り返らん」
「痴呆かよ」
 再びおじいちゃんは省吾にクラッカーを鳴らすと、台所へと消えていく。
 そしてすぐに鼻眼鏡を装着しつつ、大きなケーキをもって現れた。
「ぱんぱかぱーん。ハッピバーズディー、誘拐犯」
「あははは、やば、もうだめ」
「蝋燭、多いな。十八本刺して、表面が見えねえ」
 省吾も私も、ご飯を食べてお腹いっぱいだったのに、一言もそのことは言わず、三人でお爺ちゃんが用意したケーキを平らげたのだった。
 お爺ちゃんは、0時ちょうどになると『誕生日終わったからお前にもう優しくはしませーん』とおしりを叩いて、あっかんべーをしてさっさと自室へ入ってしまった。
 一緒に居て退屈しなさそうな、とても素敵なお爺ちゃんだ。
「寝るだろ。ばあちゃんの部屋のベット使っていいから。一回も使わないまま置いてあんだって」
「……誘拐犯のくせに別々の部屋で寝るんだね?」
 挑発的に笑うと、省吾は傷ついた風に眉を下げた。
 私でも分かる。今、省吾の心に深くナイフが刺さった。
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