散りゆく花泥棒と夜明けを待つ花嫁
*
軽トラは、ギリギリ省吾の誕生日の時間内にお爺ちゃんと暮らす家に辿り着いた。
五キロぐらい手前に、トラックが沢山並ぶ大きな駐車場のコンビニがあったのみ。
あとは何百メートルもお隣と離れた、田舎のおうちがそこにあった。
「遅かったなー、省吾」
「ああ。誘拐してたら時間たった」
「お前、ほんとうに嫁さん強奪してきたんか。賠償金用意しとかなあかんなー」
誕生日にかぶるような三角の帽子にクラッカーを持ったおじいさんが、私の顔を見て驚いていた。
省吾の誕生日だから起きていて待っていてくれたらしい。
このおじいちゃんが居たから、省吾は救われたにちがいない。
「あれまー、ちーちゃんやないか。ごめんなー、孫の我儘に付き合わされて」
「いえ。久しぶりにおじいちゃんにも会えたので。あ、これうちの花屋の花束です」
「それ、俺のやん」
「うるさい、お前はばあさんの部屋を片付けてこい」
パンっとクラッカーを鳴らしながら省吾を遠ざけるお爺ちゃんに爆笑してしまった。
お爺ちゃんには、省吾がここに引っ越すときに軽トラに荷物を運ぶお手伝いと、お正月にお野菜と共に挨拶に来てくれる時しか交流がないので会えてうれしい。
「ちーちゃん、結婚するんかえ?」
居間に座っていると、お洒落に珈琲を持って来てくれたおじいちゃんが寂しそうに言う。
「ちーちゃんなら、石油王か内閣総理大臣ぐらいじゃなきゃお爺ちゃん反対しちゃう」
「あはは。無理です。そんな息が詰まるそうな相手、結婚したくないです」
海苔が巻かれたおせんべいを手に取り、クスクス笑う。
「……結婚、わかんないです」
「え……っ」
「結婚、わけわからないですよ」
あははは、と乾いた笑い声を出すと、おじいさんは目を輝かせた。
「それって、省吾にワンチャンありかい?」
「ぷぷぷ。やだー。省吾は十八ですよ。私、二十八です」
「十歳ぐらい何なん。そんなん、煎餅に巻いて食べて忘れてしまえ」
「無理ですって。十八ってまだ未成年ですよー。彼を今、惑わすのは大人として正しい行為ではありません」
駄目ですよ、ともう一度釘をさすように言うと、おじいちゃんは寂しそうだった。
軽トラは、ギリギリ省吾の誕生日の時間内にお爺ちゃんと暮らす家に辿り着いた。
五キロぐらい手前に、トラックが沢山並ぶ大きな駐車場のコンビニがあったのみ。
あとは何百メートルもお隣と離れた、田舎のおうちがそこにあった。
「遅かったなー、省吾」
「ああ。誘拐してたら時間たった」
「お前、ほんとうに嫁さん強奪してきたんか。賠償金用意しとかなあかんなー」
誕生日にかぶるような三角の帽子にクラッカーを持ったおじいさんが、私の顔を見て驚いていた。
省吾の誕生日だから起きていて待っていてくれたらしい。
このおじいちゃんが居たから、省吾は救われたにちがいない。
「あれまー、ちーちゃんやないか。ごめんなー、孫の我儘に付き合わされて」
「いえ。久しぶりにおじいちゃんにも会えたので。あ、これうちの花屋の花束です」
「それ、俺のやん」
「うるさい、お前はばあさんの部屋を片付けてこい」
パンっとクラッカーを鳴らしながら省吾を遠ざけるお爺ちゃんに爆笑してしまった。
お爺ちゃんには、省吾がここに引っ越すときに軽トラに荷物を運ぶお手伝いと、お正月にお野菜と共に挨拶に来てくれる時しか交流がないので会えてうれしい。
「ちーちゃん、結婚するんかえ?」
居間に座っていると、お洒落に珈琲を持って来てくれたおじいちゃんが寂しそうに言う。
「ちーちゃんなら、石油王か内閣総理大臣ぐらいじゃなきゃお爺ちゃん反対しちゃう」
「あはは。無理です。そんな息が詰まるそうな相手、結婚したくないです」
海苔が巻かれたおせんべいを手に取り、クスクス笑う。
「……結婚、わかんないです」
「え……っ」
「結婚、わけわからないですよ」
あははは、と乾いた笑い声を出すと、おじいさんは目を輝かせた。
「それって、省吾にワンチャンありかい?」
「ぷぷぷ。やだー。省吾は十八ですよ。私、二十八です」
「十歳ぐらい何なん。そんなん、煎餅に巻いて食べて忘れてしまえ」
「無理ですって。十八ってまだ未成年ですよー。彼を今、惑わすのは大人として正しい行為ではありません」
駄目ですよ、ともう一度釘をさすように言うと、おじいちゃんは寂しそうだった。