異国の王子の花嫁選び

21、帰国 (異国の王子の花嫁選び 完 )

アズール王子はリシアを抱いて崖の道を渡る。
ノキアが自分のマントを差し出し、王子と王子の姫に被せた。
リシアはしっかりとアズールにしがみつき、その顔を彼の胸に押し付けていた。
二人は頭の先から足の先までずぶ濡れだった。


「ベルゼラに戻るぞ!わたしの用事は終わった!」

アズール王子は言う。
二人の騎士は頷いた。
文句なしの美しい花嫁だった。


目の前の出来事に呆然としているデクロアの王と王妃と、先程まで花嫁候補の一番目に来ていたアクア、そして王族たちの前を、異国の戦士たちは歩き、置いていく。
誰も彼も無言で、なすすべなく見送る。
彼らは、戦わずしてベルゼラの王子に負けたのだと思った。


王も王妃も、上の姉のアクアが悲痛に叫んだ通りに、何もできなかった。
王妃が望んだ通り、ベルゼラの王子は自らの意思で彼女とアランの最愛の娘を選んだ。

アラン王は、隣のシシリア王妃に言う。

「目の前で雪豹に殺されるよりかは、ベルゼラで生きている方が良いと思うべきなのだろうか?」
王妃は気弱になっている王にいい放つ。
「あの娘は、古き因習に囚われて逃れられないわたしたちに、一度殺されかけたのです。
どこで生きるとしても、命がけで助けられ愛されて、これ以上の幸せがありますか!」


かがり火は燃料を燃焼し尽くして、白い煙を幾つも幾つも上げていた。
アズールは、一人の若者の王騎士を横目で見る。
彼はここまで案内をした騎士、クレイだった。
彼は、年配の白髪の混ざる王騎士と若い騎士に腕を捕まれた形のまま、両膝をついていた。
彼の横には抜かれた剣が落ちていた。
悲痛な顔でリシアを見る。

「怪我はない。安心せよ」
アズール王子は言う。

彼の姫が彼を残していってしまう。
最初の威嚇の弓で、雪豹を仕留めるべきであった!
押さえるクロウを切り殺してでも、ベルゼラの王子より前に、飛び出してリシアを守るべきであった!


「わたしが、リシア姫と一緒にいられる方法はなんだったのか教えてください、、」

クレイはそばに立つザッツに言う。
ザッツのリシアのお守りの役目も解任だった。
クロウはもうクレイの腕を拘束していない。
あの場でクレイが雪豹を殺してリシアを助けたとしても、その後クレイは非難にさらされて無事ではいられなかっただろう。

「なんだ?まだ答えを出していなかったのか?
それは、誰よりも先にキスして、好きだと伝えて、デクロアの王になる覚悟でリシアを奪い、結婚することだ。
まあ、先にやられてしまったからなあ」

馬番の息子、クレイにはデクロアの王になる覚悟はなかったのだ。

好きならば、命がけで守り奪う。

ベルゼラの王子はやってみせた。
完敗だった。
クレイは声もなく泣いた。



ベルゼラの王子一行の帰国の準備は早い。
だが、彼らはもう一夜、デクロアに留まることになる。
雪解け水に凍えたリシアを温めるために、サウナにゆっくり入る。
そのまま王子の部屋で二人の時間を過ごし、翌朝までその扉から恋人たちは出てこなかったからだ。

ベットの上で、リシアはちょんと褐色の肌に顎をのせる。すっかり、元気になっていた。
リシアは森であった型破りなこの男と、デクロアを出ることを決めていた。
リシアの知らない大きな世界が待っていた。

平和なデクロアは、リシアを閉じ込める小さな瓶のようなものだったのかもしれない。
男は手を繋ぎ、その小瓶からリシアを引き上げる。
彼らは帰国の準備をしている。
そろそろリシアたちも服を着なければならない時間だった。

リシアにはわからないことがあった。

「で、あなたの王子は誰を選んだの?」
「、、わたしがアズールだ」

リシアは驚きすぎて、ベットから転がり落ちそうになった。

「、、、言っていなかったか?」
「聞いてない!」

アズールはそういえば、リシアが別の名前を呼んでいたことを思い出す。すぐ、その口を自分の口で塞いだので、気にもしなかったのだが。

アズールはベットから体を起こした。
リシアも起こす。
アズールはいつになく真剣な顔を作る。

「わたしは、ベルゼラ国第二王子アズールだ。デクロア国の美しいリシア姫を、妻にもらい受けにきた。一緒に来てくれるか?」
花のような笑顔が答える。
「もちろん!喜んで!」


デクロア国中が大騒ぎした花嫁選抜は、アズール王子が一人を選んだ時点で、終了する。
次の20名に残っていた娘の親たちはほっと胸を撫で下ろす。
王子は花嫁を黒馬に乗せ、12人の赤い騎士は、祝福と歓声の中、王都を後にする。

王子の腕の中の、王子の心を射止めた金茶の娘は輝く笑顔。
沿道の見送りに来た国民は思う。

美女の国デクロアが誇りに思える美しさではないか?

デクロア国民は、自分の、また娘の花嫁選抜試験で健闘した話や、雪豹から命がけで姫を守ったベルゼラの王子の話を、いつまでも語り継いだのであった。



異国の王子の花嫁選び 完
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