魔法の鍵と隻眼の姫

山脈のど真ん中。

日が暮れ辺りは一層暗くなりかけた頃ラミンはここで野宿すると言い出した。

どう考えても魔物の巣窟と思えるような高さ3mはありそうな洞窟を見つけミレイアを残しラミンは奥へと入って行ってしまった。
その奥からは、ギャウ！ガウッ！ウギャ！と何かの悲鳴が聞こえミレイアはビクビクしながらウォルナーの手綱を握り締めた。

ウガガァーーー！！

一際大きな叫び声が地鳴りのように聞こえウォルナーにしがみつくミレイアの髪からノニも飛び出してきてワタワタと飛び回る。

ガフンと鼻を鳴らしたウォルナーは前足をガツガツ踏み鳴らしヒヒーンと嘶いた。
それはまるでミレイアを守ろうとでもしているようだ。
頼もしいウォルナーに勇気づけられ首を撫でたミレイアはシーンとなった奥からかつかつと何かの足音が聞こえまた震える。
肩に留まったノニも震えてミレイアにしがみついた。

「待たせたな」

「ラミン！」

洞窟の奥から姿を現したのは飄々としたラミン。
その姿を見たとたんミレイアは飛び付くように駆け寄りあちこち触りまくる。

「ラミン無事なの！？どこも怪我してない！？」

「お、おいおい、なんともないって！」

触りまくるミレイアを落ち着けって！と腕を押さえる。

「魔物が10匹程度いたが全部やっつけた。一番デカイ蛇みたいのは骨が折れたが俺がやられるわけないだろ？」

得意気にニヤリと笑うラミンにミレイアはぴきっと何かが切れた。

「何言ってるの！あなた最初に魔物襲われて大怪我したの忘れたの！？」

涙目になりながら叫ぶミレイアに目を丸くするラミンはフッはははッ！と笑い出し余計に睨まれた。

「何が可笑しいのよ！」

「ククッ、いや、いつもの小娘だと思って」

「はあ？」

呆れるミレイアを見てまた笑ったラミン。
最近塞ぎ込みがちだったミレイアが跳ねっ返りに戻ってきたと嬉しくなる。

「これくらい気が強くないと俺も調子が出ねぇな」

まだ掴んだままの腕を引き寄せると間近で目を合わせニヤリと笑うラミン。

「な…何よそれ…」

ブルーグリーンの瞳に映る自分が困ったような何とも言えない顔をしていてドギマギしたミレイアは耐えられなくて目を逸らした。

「よし、奥に広い場所があったからそこで野宿するぞ。ノニ、洞窟の入り口に結界張っといてくれ」

飛び回ってたノニにそう言うとミレイアの手を繋ぎウォルナーを引き連れ奥へ入って行った。

熱い手を感じ、ミレイアは夢を思い出す。
優しく呼び掛け自分を引っ張り上げてくれたのはこの手……？

うろ覚えの夢ではっきりとは思い出せない。
もし、この手があの夢の手と一緒なら、それは……。

……

やっぱり思い出せない。

頭を振るミレイアだった。