魔法の鍵と隻眼の姫
奥の行き止まりには広々とした空間があり、魔物が寝床にしてただろう干し草や小枝がたくさんあった。

「積んである干し草はウォルナーの餌になりそうだ」

早速ウォルナーは干し草を美味しそうに食みだした。
ラミンが小枝を集めて火を着け夜食の用意をする。

辺りが明るくなると綺麗に整えられた寝床があり、ここに魔物が住んでいたと思うとなんだか申し訳ない気持ちになった。

「魔物も生活をしてたのよね…人を襲うってだけで退治してしまっていいのかしら?」

「おいおい、魔物に同情してどうすんだよ。魔物は昔から人間の脅威だ、話してわかる相手ならまだしも人間と見れば有無も言わさず襲うやつらだぞ?退治するしかないだろ」

「そう、かもしれないけど…」

またしゅんとするミレイアを見てため息をついたラミンは静かに言う。

「この世界に生きるもの全てが仲良くなれるなんて無理な話だ。人間同士でさえいがみ合い殺し合う。相容れない相手ってのはどこにでもいるもんだ」

「そんなことわかってるわ。それでも私は、共生できるのならその道を選びたい。ラミンってホントに夢がないわね!」

不機嫌になったミレイアはつんと顔を逸らし膨れている。
まったく、この世間知らずな王女は…

「夢が無くて悪かったな、じゃあ今度魔物に会ったら仲良くしましょうって言ってみるか?言い終わる前に喰われそうだがな?」

「そ…それは……」

もしできるなら魔物が人を襲わないようにするにはどうするか考えたい。
でも実際問題そんなことは無理だってミレイアも分かってる。
でも意地悪を言うラミンに言い返したいがその言葉も出ない。
体ごと横に向き口を尖らせたミレイアはうつむく。

その唇がさくらんぼみたいで初めて会った時を思い出すラミン。
噴水前でもそんな顔してたな…。
さほど昔のことでもないのに懐かしくなり目を細めその横顔を見つめた。

そりゃあ魔物に出会えば即座に襲われる。
怖い思いを何度も経験したミレイアはその時の事を思いだし怖くなる。
しかし拗ねた手前素直になれなくてずっと俯いていた。
暫くすると目の前にスープの入ったお碗がヌッと出て来て驚いて顔を上げるといつの間にか横にいたラミン。

「魔物と仲良くなりたきゃまずは生態を調べることだな。闇雲に話し掛けたって通じやしねえ」

「ラミン…」

まさか自分の意見を肯定するような事を言うとは思わなかったミレイアは目を丸くしてラミンを凝視した。

「それまでは大人しく俺に守られてろ。間違っても話し掛けるようなことはするなよ?まずは食え」

ほら、とお碗をずいっと差し出され手に取ったミレイアは温かいものが胸に溢れる。

ラミンが守ってくれる。
それだけで恐怖は消え去り魔物とも仲良くなれそうな気もしてくるから不思議だ。
スープを一口飲みその温かさにほっこりした。

「美味しい…」

ふにゃりと笑ったミレイアを見てにっと笑ったラミンは隣に腰掛け自分もスープをすする。
二人の間に温かい空気が流れ穏やかに夜は更けていった。
< 113 / 218 >

この作品をシェア

pagetop