魔法の鍵と隻眼の姫
馬車に乗り遠ざかる城を眺めていたミレイアはふぅっと息を吐きクッションのきいた背もたれに背を預けた。
そして、正面でじっと見てくる目線に気付いてつんと横を向く。

「おい、さっきから何無視してんだよ」

不機嫌そうに言い腕を組むラミンはさっきからひとつもこちらを向こうとしないミレイアに些か苛立っていた。

「……」

「…んだよ、言いたいことあるならはっきり言え!」

「……別に」

「別にじゃないだろ?顔に出てるぞ?」

前に乗り出してきて顎をぐいっと向けられたミレイアはムッとしてラミンを睨み付けた。

「アマンダさんはあなたの恋人じゃなかったの?」

「は?……そんなんじゃねぇ」

突然アマンダが出て来て拍子抜けしたラミンは顎を掴んでいた手が緩んだ。
その手をパシッと叩いたミレイアはスッと身を引いた。

「じゃあ、マリアさんは?ジャネットさんにローズマリーさんは?ただのお友達…って訳じゃないんでしょう?」

やっぱり原因はそれか…。

はあーっとあからさまにため息を着くとラミンはどかっと椅子に戻った。

「どいつも俺の恋人なんかじゃない。俺はいつ死ぬか分からない傭兵だ、恋人なんていても死んだら悲しませるだけだ。あいつらはそれを理解した上で付き合ってる…女友達…だ…」

さらに目を細め睨むミレイアに言葉が止まったラミンは、あーーーーっ!と頭をモジャモジャとかき回し正面からミレイアの左目と目を合わせた。

「俺は健全な27の男だぞ?そんな女の一人や二人…いや、何人いたっていいだろ?」

段々声の小さくなっていくラミンを冷ややかに見るミレイアは小さくため息をついて目を伏せた。
たった15の小娘になんちゅう言い訳してんだと情けなくなるラミン。
この純真無垢な王女様の前では自分のしてきた事も恥ずかしくなる。

「そんな言い訳しなくてもいいのよ。だから言いたくなかったのに……もう、私に構わないで」

アマンダの時の事を思い出し他の女性たちにも同じようにしてたのかと思うとミレイアは胸がモヤモヤして不機嫌になっていた。
それが何なのか気付き始めていたミレイアはそれを隠すために下を向く。

「ヤキモチ妬いてんのか?」

「ばっ…、バカ言わないで!そんなんじゃない!」

思わず顔を上げ顔を真っ赤にして怒るミレイアに余裕の表情でニヤリと笑うラミン。
不機嫌なミレイアに何故か焦っていたがヤキモチだと思うと途端にかわいく見える。

「その女の人達に会いたかったんじゃないの?何なら今から馬車を降りて会いに行ってもいいのよ?私は先行くけど」

つんと横を向き素直じゃないことを言う。

「バカ言え、俺はお前の護衛だ、離れるわけにいかないだろ。(雷に打たれたくないし)」

「会いたくないの…?」

「別に会いたかねえ。護衛じゃなくてもこの旅は俺も関わってるんだぞ?一緒に行くに決まってんだろ?何だよ?俺がいたら邪魔なのか?」

「…そうじゃなくて……ラミンはここに仲間がいるし彼女達だって…帰りを待ってるんでしょ?今ならまだ引き返せる…試練は私だけでいい…」

急に顔を曇らすミレイアは楽しそうに会話してたラミンたちを見ていて巻き込んでしまって良かったのかと今更ながら迷った。
もしかしたら生きて帰ることが出来ないかもしれない。

自分は生まれた時からこうなることを受け入れていたけど、ラミンは?普通に暮らしていたのに急にこんな運命に翻弄されることになって本来なら自分と旅などしてないで彼女達の誰かと幸せに暮らしていたかもしれない。
傭兵である限り危険は伴うけど、こんな世界を救うなんて大それた使命とは無縁だったはずだ。

< 120 / 218 >

この作品をシェア

pagetop