魔法の鍵と隻眼の姫
「きれい…」

寺院の中に入ると両側にもステンドグラスが施された窓が並び内部に色取りどりの光を落としていた。
感動しながら呟くミレイアを振り返り見ていたキースは複雑な顔をするラミンに微笑みかける。
目が合ったラミンは思わず目を逸らした。

「ここは約1200年前に我が先祖が建てた寺院です。我々子孫は代々この寺院の牧師を努めてきました」

「こちらに伝承に縁のある物があるとお聞きしましたが?」

「ミレイア様、それは後でお話しましょう。さあこちらです」

祭壇の横に扉がありその奥は居住区になってるようでたまに牧師やシスターの格好をした人とすれ違う。
牧師、シスターは20人ほど、ここはその家族も居て共同生活をしているという。
応接間らしい部屋に通されたラミンとミレイアは並びソファーに腰掛けその前にキースが座った。
程なくしてノックがして入って来た女性がお茶を運んできてくれた。
その後ろにちょこちょこついて歩く男の子もいる。

「紹介しましょう。私の妻のアデリーです。後ろに隠れているのが息子のナジェス」

アデリーのスカートに隠れて恥ずかしそうにちらりと顔を出すナジェス。
アデリーは濃茶の髪と瞳、ナジェスもアデリーに似た髪と瞳をして顔はキースにそっくりだった。

「初めましてミレイアと申します」

ミレイアが挨拶するとナジェスのくりくりの瞳が目一杯見開いた後はにかむ顔が可愛い。
ごゆっくりと微笑むアデリーに会釈しナジェスに手を振るとミレイアはキースに向き直った。
ゆっくり香りを楽しむようにお茶を飲んだキースがカップを置くと二人を交互に見る。

「改めまして、ようこそおいで下さいましたミレイア様ラミン様。あなた方お二人がこの地に訪れることを心待ちにしておりました。荒れ果てるこの世界を止める救世主様のご帰還、真に心強い」

「ご帰還?」

初めてこの地を訪れたというのに帰還とはどういうことなのか?ラミンが眉根を寄せる。
徐に立ち上がったキースはチェストの上に置いてある箱を持つと戻ってきた。

「まずはこちらを。私がこれからお話しする伝承に関わる重要なお品です」

両手に乗るほどの小さな箱をテーブルに置き、ラミンの顔を見るキースに無言で開けてみろと言われている気がしたラミンは、ごくりと喉を鳴らしその箱に手を伸ばした。

鬼が出るか蛇が出るか…ここは聖地なはずなのにそんなことを思った。
どちらにせよラミンにとってこの箱の中身が自分に関わるものだとキースの顔を見て悟った。
蓋を持つとゆっくりとその箱を開ける。
ミレイアも横で食い入るように見ていた。
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