魔法の鍵と隻眼の姫
見上げた先にはバルコニーの手すりの上に立っているミレイア。

「何者でもない、ラミンはラミンでしょ!全て上手くいくって言ったのはあなたなのよ!運命を受け留めなさい!」

「おわっ!ちょっっ…!!」

叫んだミレイアは戸惑いなく柵からヒラリと飛び上がった。
唖然としていたラミンは咄嗟に手を伸ばし飛んでくるミレイアを受け止めたが、体制が悪くドスッと倒れこんだ。

「きゃっ!」
「いってえっ!」

しりもちを着いたラミンは苦悶の声を上げたがしっかりとミレイアを抱き締めていた。
ミレイアは一瞬怖かったものの受け止めてくれたラミンに嬉しくてふふっと笑う。

「ったく、ばかやろ…なんて無茶するんだ!ここ2階だぞ?って、こら、笑うな!」

片手で頬をむにゅっと摘まんで笑うミレイアを嗜めたが、怒ってるような困ってるような複雑な顔のラミンがおかしくて頬を摘ままれたまま笑ってしまった。

「あっははっ!ラミンってば可笑しな顔!」

「お前、いきなり飛んでくるとか!いくら跳ねっ返りだからって危ないだろ…」

笑われムッとしたもののラミンは脱力しながら言った。
この王女さま時に予想もつかない行動に出るからハラハラする。
万が一落ちて打ち所が悪ければ死んでしまうのに、自分が受け止めれなかった時はどうするつもりだったのか。
頬を摘まむ手をやんわり握って離したミレイアはにこりとラミンの顔を覗きこむ。

「ふふふっ、ラミンが受け止めてくれると思ったから私は飛べたの」

「……」

「たった1ヶ月しかなかったけど私はラミンを心から信じられるわ。過去がどうであろうと先祖が何であろうとラミンはラミンなのよ?私が言うのだから間違いないの。それともラミンは私のこと信じられない?」

ドキリと胸を打ち、まじまじと見るラミンの目にはミレイアの自信満々の笑顔が映る。
今までの旅を考えると傷つけたことも多々あったっていうのに信じ切ってる笑顔に脱力する。

握られた手を頬に当てると温かくてすり寄るようにミレイアは目を閉じた。
体を気遣い魔物から守り自分を導いてくれたラミン。
多少不甲斐ない部分もあるけどこの熱い手がいつも守り包んでくれた。

「…自分を信じられなくてもお前のことは信じられるよ…」

「またそんな事言って!」

パッと目を開くと苦笑いのラミンが映る。
不意にぎゅっと抱き締められ、肩にラミンの吐息がかかり急にドキドキしてきた。
もぞもぞと身動ぎしたけど温かい胸に包まれていると落ち着いてくる。
ふうっと深く息を吐いてミレイアはラミンの背中に手を回した。

突飛な事をするこの王女様はいつでも裏表もないただまっすぐな言葉をくれる。
今正にその言葉に救われたような気がしたラミンは抱き締める腕に力を込めた。

「シャクだがお前だけは信じられる。何を悩んでたんだろな、俺は俺でしかないのに…」

「シャクは余計よ」

ぷんと怒るミレイアの突っ込みにくつくつと笑うラミンに釣られてミレイアも笑みを溢した。

腕を後ろに支え上を向いたラミンはあっと息を吐き出した。
空には厚い雲の合間から見える無数の星たち。
満点の星空を取り戻してミレイアと共に見たいと思った。

ラミンの肩に手を置き起き上がったミレイアは同じように空を見た後、真剣な眼差しをラミンに向ける。

「ラミン、もう一度言うわ。運命を受け入れ私と共に戦いなさい」

王女の威厳を持ってミレイアは命令した。
顔を戻したラミンはミレイアと目が合うと目線を一瞬逸らしたが、意を決したようにまたまっすぐミレイアを見据えた。
その瞳にはもう迷いはない。

「ほんと情けねえな俺。お前は既に覚悟を決めてここにいるっていうのに…。だが、俺も覚悟を決めた。先祖が成し得なかった事を成し遂げて、お前も、世界も、救ってやる」
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