魔法の鍵と隻眼の姫
しずしずと前を歩くミレイアに手を頭の後ろに組んで付いて行くラミン。

すれ違う侍女や召使たちが二人を見て逃げて行き、陰から睨むようにこちらを見ている者もいる。

「・・・・」

異様な雰囲気に気付いて先を行くミレイアの腰まである綺麗な黒髪を見つめる。

「見てお分かりでしょう?ここで働く者たちはみな一様に私を避け恐れている。」

静かに語りだしたミレイアは恐れ戦き逃げていく召使を見ながら哀しい目を向ける。

「それは、あの言い伝えの為?」

「そうです、この右目のせい」

眼帯に手を当て俯くミレイア。

「私が生まれてからこの国は徐々に荒れ、人々の中から憎悪や憎しみ怒り妬みが蓄積され空に渦巻くようになった」

庭に出て、空を見上げると遠くに渦巻く黒い雲がはっきりと見えそれは日に日に大きくなっている。

「戦が後を絶たず死者の苦しみ残された者の悲しみがあのような雲を助長させている。あなたは傭兵として戦いの中にいたと言いましたね?」

「ああ、数々の戦いを目の当たりにしてきた…」

この王女は何を言いたいのか…?
付いて行った先には見事なバラが咲き誇り中央には噴水が天使の像の上から噴き出している。
虚しい戦いを思い起こし憂い顔で噴水を見つめた。

「あなたはこの世界に戦いを持ち込んだ張本人、そして私はこの世界を不幸に貶める元凶。あなたと私は同罪です。」

「な、俺が戦を始めたわけじゃない!」

「私も好きでこの目を持って生まれたわけじゃない」

睨むラミンに負けじと睨み返すミレイアは静かに言い放ち佇む姿は威厳に満ち溢れるあの王を思い起こさせる。
やはりこの王女は王の娘…。

「何が言いたいんだ、あんたは…」

喉をごくりと鳴らし眉をひそめるラミンに、ミレイアはにっこりと綺麗な微笑みを向ける。

「運命を受け入れ、私と旅をしなさい。あなたに選択肢はない」

「は?」

綺麗な微笑みからは想像もつかない命令口調に口をあんぐりと開け目をぱちくりさせるラミン。

「あなたが護衛だなんて不安だけど仕方ないわ。お兄様たちが心配するし早く行って早く終わらせましょう。あなたは世界を救う救世主になれるのよ?名声が欲しいと思わないの?」

「そ、そんなもんいらねえ」

急に饒舌になるミレイアに信じられない思いのラミン。さっきまでのお淑やかな王女様はどこへ行った?

「あら?そう、欲がないのね。まあいいわ。私は早く世界を救ってこの右目ともおさらばしたいの。モリ―が言っていたわ、鍵が見つかり世界を救った後はこの右目は役目を終え元の色に戻るだろうって」

「おま…右目のために世界を救うのか…?」

「違うわ、世界を救って、右目を取り戻すのよ。自分の利益の為だけに言ってるんじゃないわ、失礼ね」

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